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鳶から鷹が生まれると思ってる人は生物学を学び直すべきだろうか

天王寺駅の中央改札を出て、駅のロータリーを歩く。

階段を登り、白い回廊を歩いていく。

ふと眺望した通天閣は、雨が降っていたせいか、霧が立ちこみ、その姿が周り一面と同様に真っ白である。

いつもは路上ライブでうるさいここも、まだ昼過ぎだからか、喧騒の一つもなく、静かだ。

足の向かう先は近鉄阿倍野駅直結の近鉄百貨店、あべのハルカスと呼ばれるそこは、元日本一の高さを荘厳と誇示するように、霧よりも高く伸びている。

エレベーターを使い、16階まで上がる。

高さをどんどん上げていく箱に、耳が詰まるような感覚だ。

無料で上がれる最上階へと繰り出て、テラスのような、箱庭のような、いまいちよくわかってない場所へと向かう。

扉を通ると、濡れた木々の匂いが、風につられ、鼻へとかかった。

今日は平日で、さっき雨も降ってたからだろう、そこには1人として影は見当たらなかった。

まるで自分の部屋になったかのようであるそこで、湿ったベンチに寝っ転がる。

なんとなく、空高く伸ばした手の先にあるのは鈍色の雲だけだ。

体勢を立て直し、どこでもない、ただ遠く果ての街並みを眺めた。

米粒のように小さく見えるくらい遠いあの街も、大阪である限り5キロもしないくらい近くで、走れば1時間もかからないだろう。

こんな気分でなければあそこまで走っただろうか、そうだろうな。

ここからの開けた景色はいつも心を落ち着かせてくれる。そよぐ風に靡く木々の匂いも心を落ち着かせてくれた。

一ヶ月前、妹の受験のために塾を辞めた。

家は決して裕福といえず、どちらかといえば貧しい家庭で、それでも行かせてもらっていた。

それにもかかわらず自分のことを嫌味にも、皮肉にも、真面目に、鳶から生まれた鷹だと思っていた。

実際少しの能はあったのだろう。

習って、勉強して、すればするほどほど結果がついてきたし、周りに比べて飲み込みも早かったから得られる得点は高かった。

けど、辞めてしまったらこのザマだ。

結局自分は周りの支えがなければ飛び立つことすらできない鳶だったのだ。

今はもう何もする気が起きない。自分自身で続けてみようと思ったけど、今までに比べると、設備然り、情報然り、やる気然り、勝るものがなくて、今までのライバルに、自分に勝てる気がしなかった。

あぁほんと、ざまぁねぇな。

あぁ行きたかったなぁ阪大。

夢を前にして打ちひしがれる感覚というものをここまでしっかり感じたのはこれが初めてだろう。

そんなことを考えているうちに、空を覆っていたあの雲は過ぎ去り、真っ黒な空を背景にオレンジや白の光がそこらじゅうから漏れていた。

100万$の夜景というものを見たことがないがそれはきっとこのようなものなのだろうと思った。

「帰るか」

誰に話しかけるでもなく、心から漏れた言葉だった。

乗ってきたエレベーターで2階へと戻る。

耳が詰まる感覚は変わらない。

ただ遅い時間帯だからだろう。

路上ライブの声や音がそこらじゅうから聞こえてきた。

挫折を味わっていない、味わう前の彼らが少し憎くて、羨ましくて、だけどそれよりも強く尊敬してしまった。

力強く、そこに立ち続けるその姿に。

帰りの電車は、帰宅ラッシュも過ぎていたのだろう、同じ車両に乗る人は数えるほどで、1人でいることができた。

最寄駅に着き、駅と繋がっている歩道橋の端に体を預ける。

真っ暗だと思っていた空は周りに光が奪われていただけで、郊外のここから見えるそれは、一面星だらけである。

無意味に空へ手を伸ばす。

鷹に生まれていればあの一等星まで飛べたのだろう。

鳶に生まれてしまったらあの一等星まで飛べないのだろうか。

その後


ドアを開けて、布団に寝転がる


よし、今日も生きていた

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