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immortal妹

あのあとみんなも疲れていたのか、特に何かすると言うわけでもなくそのまま帰宅した。自分の部屋で何か切り札となるようなダジャレを考えていると扉がノックされる。


「どうぞ。」


そう声をかけると、長い黒髪を揺らし、丁寧にお邪魔しますと挨拶をしてサヤが入ってくる。彼女はサヤ・ゴトウ。一見すると見目が整った普通の女の子だが、僕のせいで不死身である。

わざわざノックをしなくてもいいといつものように伝えると、


「親しき仲にも礼儀あり。ですよ、兄さん。」


といつものセリフを返してくる。真面目だなぁ。いい加減な僕とは大違いだ。

そんな真面目な彼女がわざわざ僕の部屋を尋ねてくるなんて珍しい。昔は遠慮なく僕の部屋に遊びに来ていたのだが、ある時を境に今のようにほとんど遊びに来なくなったし、呼び方も「お兄ちゃん」から「お兄さん」に変わった。お兄ちゃん寂しいです。そんな彼女に何の用か尋ねる。


「特に用と言うわけではないですが...兄さんに労いの言葉をまだ伝えられていなかったので...」


それを聞き、僕は苦笑しながら応える。


「そんなのいいのに。本当に真面目だなぁ〜」

「もう!からかわないでください!大事なことなんですから!」

「そうだね、ありがとう。」


少し口角を上げながら答える。こうして久しぶりに兄妹水入らずで話せるのは嬉しいことだと思いながら言う。


「サヤこそお疲れ様。今回も大活躍だったね。」


僕からも労いの言葉をかけるとサヤは少し不自然な表情になる。知ってる。これは嬉しいのを堪えている表情だ。


「...兄さんほどではないですよ。」


サヤはそう言うがとんでもない。彼女は僕らのパーティの生命線とも言える“絶対防御”という力をもっている。妹曰く、かつて僕たちが相手の攻撃を受けそうになったとき、“守りたい”と願い、それに応えた魔力から得た力らしい。ただ一つ懸念点がある。


「前も聞いたけど怪我とかしてない?」


僕の言葉にサヤはため息を吐くと答える。


「相変わらず過保護ですよ、兄さん。さっきも言いましたが私は大丈夫です。」


彼女はそう言うが過保護になって当然だ。何せ絶対防御の力は彼女自身には働かない。というのも魔力が応えた願いはあくまで“仲間を守りたい”でありそこに自身は含まれていない。不死身の力も致命傷は防ぐが致命傷に至らない傷は普通に受ける。


「それならよかった。サヤも疲れてるだろうしもうベッドでお休み。」

「そうですね。兄さんもゆっくり休んでくださいね。」


そう言うとサヤは僕の部屋を後にする。僕は一つ息を吐き、ベッドに横たわる。さっきまでサヤと話していたからだろうか。自然と彼女が不死身になった時のことを思い出していた。



あれは世界に魔力という新たなエネルギーが発見され、世界が大きく変容しているときだった。人類はそれまで高度な文明を築き、先進国ではなんら不自由のない生活を送ることが可能となっていた。しかし、文明の発展が頭打ちになろうとしていたとき、魔力は見つかった。今までなんら変化のなかった地脈から未知のエネルギーが流れるようになったのだ。それは人々の願いに応え、世界を変えた。

魔力を手にした人の多くは思いのままにその力をふるい、そうして世界はカオスな状態へ陥った。それに乗じて魔力を手にしていない一般人が悪事に手を染めることもあった。サヤはそんな奴らの1人に襲われていた。



「嬢ちゃん、一緒に来てもらおうか。」


その手には拳銃が握られていた。一体どこで手に入れたのだろうか。そんな疑問が頭をよぎったが、今の世情では不思議なことではないかと納得する。どちらかというとこんな世情の中、不用心に子供2人だけ、しかも夕方に歩いている方が不思議かもしれない。


「今から兄さんと家に帰るところなので。」


妹が毅然とした態度で言う。本当にこれから初等教育の高学年になろうかと言う女の子なのだろうか。我が妹カッコ良すぎる。


「すいません、僕たち急いでるので...」


対照的に僕は気が気ではなかった。内心焦りまくりである。しかし目の前の男はどうやら僕の方には興味がないようだ。おそらくサヤの方を連れて行って何かするつもりだろう。僕の容姿がパッとしないことがこんなところで役に立つとは...。


「ガキに用はない。そっちの嬢ちゃんだけで大丈夫だ。」


いやこっちが大丈夫じゃないが。相手に見えないように背中側で携帯を取り出そうとする。すると男は妹の体を引き寄せると、銃を妹の頭部に押し付けながら言った。


「余計なことはするな。坊ちゃんはそのまま何も見なかったことにして立ち去るだけでいい。オレはガキをポンポン殺す趣味はないからな。」


僕はどうしようかと半ばパニックになっていたが、切り札を思い出す。


「無駄だよ。なんて言ったて僕の妹はimmoral(いもうとぉ)なんだ。」


一瞬男は面食らったような顔になるが、すぐに表情を戻す。


「何意味わからねぇこと言ってやがる。お前なんかメンドクセェしやっちまうか。」


そう言って銃口をこちらに向けて引き金を引こうとする。


終わった。


僕の力がいつも通り発動していれば妹は大丈夫だろう。でも僕のことは考えてなかった。まぁ妹が目の前で死ぬと言う最悪な状況は避けられたしいいか、と諦観と共に目を閉じると声が聞こえた。


「やめて!!」


僕の体が押し倒され、背中に地面がぶつかる。その衝撃に驚きつつ目を開けると、サヤが僕に覆い被さっていた。驚きのあまり声を上げる。


「サヤ何してるの!!早く逃げて!!!」

「いや!お兄ちゃんも逃げるの!!」


僕は彼女を押し除けようとするが全然動かない。何これ、これが火事場の馬鹿力ってやつ?と呑気な考えが浮かぶが、なんとか彼女をおぶって男に背を向け走り出す。


「待てや!」


その声と同時に乾いた音が響く。男が引き金を引き、銃弾は僕らの頭部をめがけて飛んでくる。それと同時にしまったと思った。彼女をおぶって男に背を向けているこの状態では銃弾がサヤに当たってしまう。自分の愚かさを呪うと同時に金属が弾かれる音がした。

僕はそれに気づかないまま必死に走って逃げた。その後もう一度金属が弾かれる音がしたが、僕らはなんとか逃げ切ることができた。それからのことは、ただ2人で無事を喜びあったことと、その男は無事捕まったということ以外はあまり覚えていない。

あの金属が弾かれる音はサヤの不死身の力によるものだと気づいたのは一晩たった後だった。



思い返して自らの幸運に感謝する。僕がすでに特殊な力をもっていたこと、銃弾が二発とも致命傷となる頭部に当たったこと、僕が妹を背負って走ることができたこと。どれも奇跡だ。

その事件があってから、僕は自分の力と向き合うことにした。


僕が自分の力に気づいたのはこの事件の数ヶ月前のことだった。

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