帰還
僕たちは魔王を倒したのち首都へと帰還した。そこで待っていたのは市民たちの手厚い歓迎だった。どうやらすでに僕たちが魔王を討伐したことは伝わっているらしい。
「コウ様〜魔王討伐お疲れ様で〜〜す」
「コウ君こっち見て〜!」
その他多くの声援に満面の笑顔でコウが応える。彼は赤い短髪を備えたナイスガイで男女問わず人気がある。眉目秀麗とは彼のためにある言葉だと思える。パーティでは頭ひとつ抜けた戦闘力を有した剣士だ。このパーティのリーダーはなぜか僕が務めているが、今でも彼がリーダーになるべきだと思っている。ただ何回言っても彼は僕がふさわしいの一点張りだ。頑固なところは少し直したほうがいいと思う。
「相変わらずコウさんはすごい人気ですね。」
そう漏らしたのは妹のサヤだ。長い黒髪とややつり気味の瞳が特徴の美人さんである。これは身内贔屓ではないだろう。イケメンでも不細工でもない平凡な顔立ちの僕とは大違いだ。
ちなみに彼女は不死身だ。
かつて「僕の妹はimmortalなんだ。」と口にしたことが原因だ。「immortal」は「不死身」を意味する単語だが、当時の僕は切り札の一つとしてこのダジャレを用意していた。ふざけてる。その時の僕は真剣だったけど...。
「コウさんは顔がいいですからね...でも私はヒューくん派です!」
「私もヒューイちゃんがいい!」
そう言ってくれるのは幼馴染のルイスとミリエラだ。2人は姉妹で、子供の頃家が隣だったこともあり今でもこうして仲良くしている。
彼女たちの言葉に僕が曖昧な笑みを浮かべていると今まで黙っていたケイが口を開いた。
「コウばかりが注目されるが、此度の戦いはヒューイの力あってのものだ。私たちはそれを知っている。」
「はは...ありがとう....」
彼の言葉に感謝の言葉を返す。ケイはメガネをかけた神経質そうな男でパーティでは頭脳担当である。常に冷静ではあるが僕のことを過大評価している節がある。メガネを変えたほうがいいんじゃない?
「それにしてもみんな浮かれすぎだよねぇ〜」
「確かにまたいつ魔王に準ずる存在が現れるか分からないですからね...」
ミリエラとルイスがが周りの市民たちを見て言う。
この世界に突如として出現した魔力は概ねその総量が決まっている。それを人々は半ば奪い合うような形になっているのだが、今回僕たちが討伐した魔王は世界を害することを望み、世界に存在する魔力の総量の半分近くを手にした。魔力は人の願いに応じ、その願いの強さに応じて引き寄せられる。また同じような存在が現れても不思議ではない。
ここは一つ釘を刺しておくか....
「確かに2人の言う通りだ。僕たちが帰還したからと言って危機感をなくしてもらっては困るよね...」
その瞬間周囲の空気が変わった。市民の1人が突然震えながら口にした。
「でもまた魔王が現れるかもしれない...」
堰を切ったように声が上がる。
「そうだ...こうしてはいられない!鍛錬せねば!」
「そうよ!いつまでも頼りっぱなしじゃいけないわ!」
「帰って訓練するぞ!!」
そうして波が引くようにこれまで集まっていた市民は各々目的の場所へと向かった。
みんな危機感持ちすぎじゃない?
正直危機感を持つべきは僕の方だ。また魔王が現れた時どうすればいいのか。同じ手は通用しない。何せ同じダジャレは効果を発揮しないからだ。これは少し言葉をいじっても変わらないことが今までの研究?でわかっている。例えば、「魔王を倒してしまおうか。」と文面を少し変えても今度は討伐できないだろう。
さっきまでの活気が嘘のように人がいない街並みを仲間たちと共に歩く。
切り札を用意せねば。
僕はいつものようにそう決意した。