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原罪- Intermezzo -  作者: 梨藍
芽生える心、散る恋慕
6/7

副題:可哀そうな被害者製造物語

『お待ち下さい!』


戴冠式が滞りなく(?)進み、胸を撫で下ろして志杏椶もさあ自室に戻りましょうかと、大広間を出たそのときだ。


先ほど手合わせしたばかりの若い竜族の青年が、衛兵に拒まれるのに構わず、懸命に抗いながら志杏椶に向けて声を上げた。


その言葉を受け、志杏椶は近付く。


『すみませんが、その方とお話をさせて頂けませんか?』


衛兵に対して志杏椶がそう言うと、衛兵達は戸惑った。

守るべき主である志杏椶がそう言っているのだから、すんなりと青年を解放しても良いところだ。


そう、通常ならば……

だが今回ばかりは違っていた。


先ほど手合わせした相手……しかも敗者だ。

更に、相手は前回の武道会の優勝者。


志杏椶に対して、逆恨みしている可能性が高い。

そんな危険だと重々判っていながら解放することは、衛兵としての使命から、どうしても出来なかったのだ。


だが、続けて志杏椶が言う。


『大丈夫。少し、お話をするだけです。そこの方、豪殿……でしたよね?申し訳ございませんが、武具を衛兵に渡してもらえませんか?彼らにも仕事というものがありますから』


そう言うと、案外あっさりと豪は武具一切の全てを衛兵に潔く明け渡したのだった。


『先ほどは、手合わせありがとうございました!』


いきなり頭を下げてきた青年に、志杏椶は気を完璧に許してしまっていた。


『いえ、こちらこそ……申し訳ございませんでした』


これは、本心からの言葉。どんなに男気が溢れていようと志杏椶は“女性”で……本人もそれは弁えていた。

あの時、会場からの支持を得るためには青年から一本取る他なかったとしても、“女”に負けることが、どれほど屈辱的な事か。


それが武道会で優勝した者となれば、尚更の事だろう。


だが相手の自尊心を考えれば、自分から謝に行くわけにもいかず。

だから、きっと頭を悩ませていた青年が目の前に現れた事で、気を許してしまうのも当たり前のことで。


『それで、おッ……お願いがあります!』


この“お願い”とういうのも、ある程度想定しいた。


『何でしょうか?』


『これを……受け取ってください』


だがこれがそもそもの、これが全ての間違いだった。


見解の相違……というのだろうか?


『もちろん、喜んで』


笑顔で差し出された封書を受け取る。

再戦の申し込みだと、志杏椶は信じて疑っていなかった。


『ありがとうございます!!』


―― あらあら……


再戦を受けただけで、こんなに喜んでもらえるなんて。

久しぶりに、根っからの無頼漢に出会えたと内心喜んでいた矢先……


『一生、幸せにします!』


『……は?』


一瞬、志杏椶の思考が停止してしまったのは言うまでもない。


小躍りをし出すんじゃないかと思うくらい喜んでいる青年を横目に、恐る恐る改めて手渡された封に目をやる。


―― そこには……



【交際申込書】



達筆な文字で、そう書かれていた。


―― 交際をすっ飛ばして“一生”はないんじゃないかしら?


そんな場違いな考えが、志杏椶の頭をよぎった。


自分たちの主君の性格を熟知している衛兵達と、ちょっと離れたところで見守っていた雄飛。


彼らは、とてもとても深~い溜息と付いたのだった。そうして、今に至る。


志杏椶とて、自分の撒いた誤解の種だ。穏便に事を進めようと丁重にお断りしていた。


『すみません。私、勘違いをしてしまって……申し訳ありませんが、あなたとはお付き合い出来ません』


遠まわしに断るならば、きっぱりと引導を渡した方が相手の為だと思い、そう言い渡したのが一週間前……


だが、それでは事は収まらなかった。

頭の中が春色一色の豪には、全く持って通じない。


あまつさえ……


『そんな、照れるあなたが可愛いです!』


そんな言葉を投げかけてきて、志杏椶は鳥肌が立った。


断り続けて一週間……もう、相手をする気すら起こらない。いい加減、辟易していた。


淘汰も、立派な被害者だ。


どういうわけか、淘汰が志杏椶を手伝いに来ている時間帯を見計らっているかのように、豪は志杏椶を訪ねてきていたのだ。



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