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原罪- Intermezzo -  作者: 梨藍
芽生える心、散る恋慕
3/7

副題:可哀そうな被害者製造物語

晴れ渡った空。

一点の曇りもなく、どこまでも澄み渡っている。


だが、東西両域の主だった面々が一同に介した東域の大広間は、どんよりとした重い空気に包まれていた。


専ら、密やかに囁かれているのは、今日の主役である1人の娘のこと。


「なぜ、こんな大切な役をあんな小娘に……」


「全くだ。何も判ってはいない小娘がッ……しかも“東西双方に地上を守る使命を負う義務がある”などと言う、ふざけた理由で西域の王と養子縁組とは」


「そもそも、王は何を考えておられるのやら……」


不平不満は、積もるばかりだ。そんな時、衛兵の声が響く。


「西域 神聖王、東域 天帝 ご入場!」


水を打ったように

それまでの騒ぎが嘘のように

広間が静まる。


壇上に据えられた玉座に、当代神聖王であるラスティと、同じく天帝である真武が座した。

真武の隣に立った天帝補佐の焔磨天 焔祁が、一歩前へ進み出ると見渡しながら口を開いた。


「皆々様、今日はようこそ、伊倭王神任命式典にお越しくださいました。今、地上は“狩神”そして“妖”といった邪な者達に蝕まれています。そのような状況を打破すべく東西両域における統制陣にて、慎重に討議した結果、わが娘 地天 志杏椶がこのような大役を仰せつかりました事、まことにありがたく存じます。」


そう言って、恭しく一礼すると一歩下がった。続いて真武が鷹揚に頷くと、口を開く。


「何か、異論がある者はここで述べるが良い」


すっと目を細めて鋭く見回すと、場に動揺が走った。


真武の物言いは、まるでそれまで囁かれていた噂を全て聞いていたような……全てを見通しているような言い様だ。


その様子に苦笑を浮かべ、横から口を出すのが神聖王 ラスティだ。


「天帝殿、そんなにきつく言っては、言えるものも何も言えまい」


そう言うと、立ち上がった。


「今回の件、東西両域において不穏な噂が囁かれていることを我々とて知らぬわけではない。あるのならば、今この場で申し出られよ」


暗に「自分たちの選んだ“伊倭大神”より、相応しいと思うものはこの場で名のりを挙げよ」と仄めかす。


その言葉に、再度場がざわめいた。


「志杏椶、ここへ……」


真武の促す声に導かれるように志杏椶が一礼すると、壇上へと進み出た。


いよいよ、場が騒然となる。


「このような政も判らぬ、小娘に何が出来るというのです!」


どこからか、そんな声が聞こえてきた。

それが口火を切ったように方々から声が上がりだした。


「そうだそうだ!剣の腕も、本当のところどうなのか判ったものか!」


話はどんどん横へそれていく。


「武に長けているというなら、何故先だって行われた武道会に出場なされなかったのか」


「よもや、やはり噂が先走っただけではないのか?」


暴走した話の行く先は、最早盛り上がる当人達にすらわからない。


「この間の武道大会、竜族の豪という若者が優勝したと聞く」


「本当に自信があるのなら、竜族の豪から一本取ってみろ!」


「そうだそうだ!!」


最早、この熱……

―― 否、溜まった鬱憤は止まるところを知らない。


志杏椶は、黙ったまま後ろに控えている王……2人の伯父と、父に視線を向ける。


三者三様に頷き、苦笑を浮かべている。それを承諾の意と介した志杏椶が、そこで初めて口を開いた。


「これは、皆々様方……申し訳ございませんでした」


少々大げさに、芝居がかった一礼をする。


「はっ、お飾りの“王”が!」


声の方に、その容姿からは予想も出来ないほど鋭い視線で相手を黙らせた。


背筋が凍るほど爽やかな笑みを湛えて口を開く。


「では、私がその方と一戦交えて、一本取れば納得して頂けますか?」


「は?」


「皆様の前で……今、ここで一戦交えようというのです」


背後でラスティのみならず、傍らに控えている四聖天長ラグエルもこっそりと噴出す気配がした。

真武と焔祁にいたっては、頭痛を感じて額を抑えているに違いない。


手に取るように判る後ろの状態に心中で謝り、言葉を続ける。


「それとも試合をされては、まずいのでしょうか?」


困り果てた様に言う志杏椶に、会場が更にざわめく。


「そこまで仰るならば、お相手させて頂こう!」


図太い声が、会場に響いたのはその時だ。

壇上から一番離れた末席に居るにも関わらず、その存在感は大きい。


モーゼの十戒の如く、人の群れが割れた。

その道を堂々と歩いてくる。


志杏椶の目の前まで来てみると、何と190cmは下らないだろう、筋骨隆々とした武官で……


まるで志杏椶は赤子のようにさえ見える。


「それがし、竜族の豪と申す。手合わせ願いたい。が、拙者にもか弱い婦女子をいたぶる趣味は毛頭ござらん。辞退するなら今ですぞ?深窓の姫君?」


そう言って、豪はわざとらしい仕草で恭しく志杏椶に頭を垂れたのだった。

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