②
羅侯は、何時ものようにやって来た友人を迎える為に、唄う事を止めて振り返る。
そして、僅かに目を見開いた。
―― そこに立っていたのは
居るはずのない半身
失った片羽
何に変えても
守りたかった……
「マ…ナ……?」
“どうして”それは言葉にならなかった。全てを理解してしまったから。
『大丈夫』
そう嘯いてみても、心の底には堪え難い寂寥が降り積もっていて……
『一人でも平気』
自身に言い聞かせたところで、夜が……闇が訪れる度、後悔という名の重圧に胸が押し潰されそうになる。
無意識のうち、いつも縋っていたのは自らが手放した存在。
「僕を……心配して……?」
―― 気付かない筈だね
“力”を奪ったのも
魂を“白”に塗り替えたのも
あなたから“記憶”を消したのも
「全部、僕なのに……」
『マナ、掟を破った罪は……君自身に払ってもらう』
これしか、マナを守る道はないと、自身に言い聞かせた決断だった。
“断罪”という形で力を
“記憶”を奪った。
ウルドの泉から、追放した。
それが、マナの“自由”になると信じて……
―― でも……
脳裏に浮かぶのは“断罪”の瞬間に見せたマナの涙……
大好きだった“笑顔”が思い出せない。
ずっと聞きたかった
ずっと確かめたかった
「マナ……あなたは、今幸せ?笑っている?」
その言葉に、マナは微笑を浮かべて頷いた。
それは、いつしか忘れてしまっていた、羅侯が大好きなマナ。
「良かった……」
無意識だった。無意識のうちに出た言葉だった。
マナが静かに近寄る。何も言葉はない……だが羅侯にはマナの心が判った。
「ごめんね……僕が呼んでしまったんだね……」
そっと、羅侯は手を伸ばした。触れている筈なのに、感触はない。
手が届くところに居るのに、今はもう遠すぎて触れる事すら叶わないのだ。
「僕は大丈夫。……心配を掛けてごめんね?でも、もう大丈夫だから……」
……在るべき場所へ……
羅侯の言葉に導かれる様に、マナは無数の蝶へと姿を変え、空高くへ……マナを待つ人の元へと還っていった。
見送る羅侯の頬を、冷たい雫が伝う。
羅侯はその雫の名も判らずに、いつまでも空を見上げていた。
泣かないで……
僕なら大丈夫
大丈夫だから
“僕”という幻想に
囚われないで……
まほらばの夢を
終わらせて
僕は唄い続けよう
あなたに届くように……
あなたの幸せを祈りながら
いつまでも……
……ずっと……
【終】
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