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瑠璃色のドールイーター  作者: 左右ヨシハル
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06.ピトフーイの証言



モルグ街の肌を刺すような鋭い風と寒さにウルルはコートの前を閉めた。


「寒くない?」


「うん」


鼠は手を服の中に入れながら歩いていたので袖が風で揺れていた。

その袖の揺れがウルルの右腕を失った記憶を刺激する。

ウルルは目を瞑り指で押して消そうと努力する。


明かりが消えてるパブや凍死しているホームレス、車上荒らしを遊びにしている子供などモルグ街は人間の闇そのものだった。


地面は石レンガで舗道されているが所々、子供が取っていくので気をつけないと転びそうになる。


「どーるいーたーさん」


鼠が初めて聞いた言葉を復唱するみたいにウルルを呼んだ。


「ん?」


「ブラックリストってなに?」


「【世界治安維持連盟プロテクションズ】っていう組織に懸賞金をかけられた人達の事だよ」


「プロテクションズは悪い人達のこと?」


「……逆かな。懸賞金をかけられる方が悪い人だよ」


鼠は腕をちゃんと袖に通して手に息を吹きかける。


「どーるいーたーさんも悪い人?」


鼠は昨夜、イーグルが言った事を思い出す。


『その犯罪者に頼み事するってどういうことかよ』


「うん僕も悪い人だよ。人は殺すし物は盗むいい人にはなれない」


ウルルはコートを脱ぎ鼠に渡す。

鼠は自分よりも大きいコートに着られながらウルルの体温を感じた。


「分かんない。人を殺したら悪い人なの?物を盗んだら悪い人なの?何をしたら懸賞金をかけられるの?」


鼠は右手でおでこを掻こうとしたがコートの袖によって阻まれる。

そんな姿を見ながらウルルは、この子といる事は過去の自分を客観視して見ることだと悟った。


何故、自分がこの子を救いたくなったのか。

今まで見殺しにしてきた子供はたくさんいるし助けを呼ぶ声に耳を塞いだ。


でも鼠のおでこと目にある傷は彼女の心の傷そのものだ。

そしてその傷は僕が受けてきた傷にとてもよく似てる。


痛く長くそして消えない。

そんな痛みを知ってるから僕は彼女を救いたいと思ったのかも知れない。


そんな事をモルグ街の風景と共に眺めながら考えていると鼠に脇腹を触られた。


少し驚いて鼠の方を振り向くと彼女は今度はある一軒家を指差す。


その家の前にはタイヤもガラスもエンジンも全て外されボロボロになった車と反対側には体育座りをしながら凍死したホームレスが三人並んでいた。


「ここだよ」


薄汚れた丸太を重ねて作ったであろう家は所々の欠陥さから自分で作ったのだろう。


ウルルは玄関の扉を三度、叩く。

家には誰もいないかのように静かだった。


もう一度、叩き今度は声を出した。


「酒場【ナイト】の依頼で来ました」


すると家の中で動く気配があった。

ドンドンと足音が響き勢いよく扉が開いた。


「あー?なんだ?お前ら【人形攫い】の依頼、受けたのかー?依頼書見せろ」


ピトフーイという男の第一印象は嫌悪感だった。

寒い季節にも関わらずタンクトップを着ていて腹が出ている為、張っていた。腹の脂肪とは反対に腕の筋肉は隆起していた。

髪の毛は頭のてっぺんには何も生えていないが周りにはアフロのような毛が生えていた。


「ああ」


そこでウルルはコートのポケットに依頼書を入れていた事に気付いた。


「はいこれ」


鼠は袖をまくりコートから判子付きの依頼書を出して見せた。


「あー?……本当みてえだな。じゃあ入れや」


家の中は見た目によらず温かく暑いぐらいだった。

熊を殺して作ったカーペットやウサギの毛皮を縫い合わせて作ったカーテンや轟々と燃える暖炉の火。


その暖炉の上に飾られた額縁に入った斧。

床には酒瓶が転がっていた。


ピトフーイは一人掛けのソファに置いてあった酒瓶を持ち座った。


ウルルと鼠は近くに投げ捨てられた椅子を拾い座った。


「……いつ人形を奪われたんですか?」


「一年ほど前かなその前までは木こりをしててね。俺の人形は使えねえポンコツだったけど切った木を麓まで運ぶことぐらいは出来た。だが今じゃこれだよ」


そう言ってピトフーイは手を上げてお手上げのポーズをとる。


「木こりの仕事はやめたんですか?」


ピトフーイは酒瓶を飲み干すと床に捨てた。


「あー?そうだよ。その時期にちょうど腰をやってね」


「今は何を?」


「おいテメェよ。それは【人形攫い】と関係あんのか?あ?さっさと……」


その時、ピトフーイは目を細めたウルルにどこか既視感を覚えた。

鼻と口を覆う黒の仮面、ピトフーイの目は右手の手袋に移動する。


「あんたC級犯罪者(ブラックリスト)人形喰者ドールイーターか?」


「それが【人形攫い】と何か関係がありますか?」


ピトフーイは慌てて立ち上がり近くにあった制汗剤を手に取り脇に塗り出した。


「あーいやあれだな別にねえけど、はっきり言って俺はもう自分の人形の事は諦めてんだ。だからドールイーターさんが俺の為に何かするなんて別にやんなくてもいいんだけどよ」


「あなただけの依頼じゃない他にあなたを含めて三人同時に依頼を受けているんです……犯人を見ましたか?」


ピトフーイはおでこに出た大粒の汗を手で拭うと制汗剤を机に置く。


「えーとあれだえーーと」


ピトフーイは頭を押さえて考える。

その間、鼠は家を眺めていた。


「コート暑いでしょ?脱ぎなよ」


ウルルが声をかけると鼠は首を横に振った。


「大丈夫」


「思い出した思い出した。俺の時は森の中にある小屋で夜を明かそうとしてたんだよ。そしたらいきなり外から音がしてな。でもよ森の中だから動物がいるからな別に気にしなかった。そしたらいきなり窓ガラスが割れて覆面を被った奴らがたくさん来て瞬く間に俺の人形を奪っていきやがった」


ピトフーイは同じ場所を行ったり来たりしながら話を続ける。


「俺もよ抵抗はしたんだけど、そうだその時だよ。腰をやったのは全くそれで仕事は失うわ人形は奪われるわで散々だったよ」


ピトフーイは話疲れたのか先ほど座っていたソファに座った。

しかし今度は背中を預けずに背筋が伸びていた。


「では犯人は全く見てない?」


「そうだな。みんな黒い覆面をつけてた」


「体型は?」


「えー分かんねえな。まあ大体俺ぐらいの背だったしあーでも女が一人いたかもな。かなり乳がでかい奴が一人」


ウルルは腕を組んだ。


「鼠が奪われた時はどうだった?」


鼠は複製されカーペットにされた熊の頭を蹴りながら答える。


「私の時は寝てたし外は真っ暗だったし顔も見えなかった。何人いたかも分からなかったけど一人じゃなかった」


「そうか……ピトフーイさん他に何か記憶にある事はありませんか?」


ピトフーイは首を横に振った。


「いやないな。でも人形の事は諦めてるよ。依頼を出してた事すら忘れてたからな」


そう言ってピトフーイはチラリと玄関の扉を見た。

それを察したウルルは少し鼻から息を吐くと席を立った。


もう来るなってわけか。

こいつも何処かで暗殺依頼を出されてるのかもな。


「分かりました。では今日はここで失礼します」


ウルルは少しだけ頭を下げる。

ピトフーイは玄関の扉を開けた。

微かに脇からミントの匂いがした。


「じゃあ」


ウルル達が家を出た瞬間に鍵をかける音が聞こえる。

家の中とはうってかわって身体中に寒さが襲う。


「あの人も熊さんを殺してるからブラックリストだね」


「だったら人間みんな犯罪者ブラックリストだよ」


鼠はその意味が分からずに考えているとウルルがしゃがんでコートから一枚の依頼書を取り出す。


「次はここだね」


「……?。ベール町?」





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