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瑠璃色のドールイーター  作者: 左右ヨシハル
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05.人形探し



鳥がさえずり、辺りがうっすらと光を取り戻す頃に、窓から照らされる光陽を受けウルルはゆっくりと目を開けた。


酒場【ナイト】のカウンターの隅にウルルは座りながら寝ていた。

太腿には毛布がかけられていた。


ウルルは肩に少し重さを感じて視線を向けると肩には少女が頭を預けていた。


うっすらと寝息を立てながら少女はウルルの腕を触りながら深い夢の中にいた。


その顔を見ながらウルルは少し笑みを浮かべる。

まるで母親が子供を見るような慈愛に満ちた笑みだった。


その少女の寝顔を見ているとウルルにも睡魔がやってきた。


あの時、自分というものが粉々に砕け散った頃から自分の人間らしい部分が日に日に崩れて、嫌悪していた人形に近づいてると思っていた。


だけど今、自分が感じている睡魔はきっと人形にはない現象だ。


そんな久しぶりに自分の前に現れた睡魔をウルルは優しく受け止めて深い眠りの世界に入って行った。


眠る寸前に自主的に眠ろうと思ったのはいつ頃だろうと思った。



「…い、おい…おい!!いつまで寝てんだ!起きろ!」


イーグルの声で眠りから覚めた二人は互いに顔を見合わせた。


「なあドールイーター。お前本当に【人形攫い】を追うのかよ」


イーグルは心配そうにウルルに尋ねた。

ウルルは目を擦りながら頷く。


「そうだね」


「この小娘の為にか?」


イーグルが顎で少女を指す。

少女は起きているが毛布に包まってウルルの腕を離そうとしなかった。


「昨日も言ったけど元々そういう仕事を生業にしてるし彼女の為ってわけじゃないよ。まあ少しはあるけどでも前々から目はつけてたんだ」


ウルルは少し早口でイーグルに答えた。


そしてウルルは思い立ったかのように少女に呼びかけた。


「ねえ君は名前はなんて言うの?」


「ない」


少女はウルルの腕を色んな持ち方をしたり触ったり頬をつけたりしていた。


「じゃあなんて呼ばれてたの?」


すると少女はウルルの顔を見る為に顔を上げた。


「誰にも呼ばれた事なんてない」


その淡々とした声にウルルの心は少し苦しくなる。

それが当たり前の世界で生きてきた事に少なからず自分との共通点を見てしまったからだ。


「じゃあなんて呼ばれたい?」


少女はウルルの指を広げながら小声で答えた。


「鼠さん」


「分かった。鼠、君の人形は僕が取り返すよ」


その時、初めて鼠が笑った。


「ありがとう!」


その笑みだけが鼠がまだ幼い少女だと気づかせる唯一の点だった。

その時、鼠のお腹が微かに鳴った。


「お腹すいた?」


「うん」


「イーグルさん少し何か食べる物はありますか?」


「うちは定食屋じゃねえんだけどなー」


そう言いながらイーグルは奥の部屋に入って行く。

少ししてイーグルは二つの皿に入ったシチューとパンを持ってきてくれた。


「金は取るぞ」


「私持ってないよ」


鼠はウルルの顔を見てどうするか顔だけで尋ねる。


「僕が少し持ってるから大丈夫だよ」


鼠は椅子に座るとものすごい速さでパンとシチューを食べ終わりウルルの方を見る。


「終わったよ」


「僕の分のシチューも食べていいよ」


するとウルルのシチューとパンもすぐに食べ終える。


「おいドールイーターさんよ。飯食わなきゃ死ぬぞ」


「朝はお腹、空かないんだ」


そう言いながらウルルはコートの内ポケットから1000Fファニーを出すとカウンターに置いた。


「ウッドペッカーJr.はもう来てる?」


「俺よりも早くに来て準備してるよ」


「終わったよ」


鼠は命令を待つ犬のようにウルルの顔を覗く。


「じゃあ少し【人形攫い】に関する依頼書がないか聞いてくるよ」


イーグルは少しだけ頷きシチューの皿を片付け始める。


「どこに行くの?」


「ここの二階には、依頼所があってね。そこで依頼を受けられるんだ。もしかしたら【人形攫い】に関する物もあるかも知れないと思ってね」


階段を上がりながらウルルが答える。

二階には扉が三つありその中でも二枚扉の大きな部屋の前でウルルは止まった。


そして扉を叩くと中から「あーい」という声が聞こえる。

その声を確認してからウルルは扉を開けた。


そこは薄暗く埃が舞う大きな部屋だった。

丸机が四つほどあり大きなカウンターの後ろにはたくさんの引き出しがあった。


そのカウンターにタイプライターを置き自分の身長よりも大きな丸椅子に座る小さな老人がいた。


「おはようございます。ウッドペッカーJr.さん」


「ああ君か。確かC級犯罪者(ブラックリスト)のドールイーターだね」


「はい。少しお聞きしたいことがあって」


ウルルと鼠はカウンター前まで移動する。


ウッドペッカーJr.はてっぺんが禿げ上がり色が薄れた服を着ていた。


「あー何かね?」


顔の半分を覆うほどの丸メガネを指で触りながら答える。


「【人形攫い】について何か依頼は来てませんかね?」


ウッドペッカーJr.はウルルの顔をじっと見つめてウルルの少し後ろにいる鼠をチラリと確認する。


「確か三人いるな」


そう言うとウッドペッカーJr.は梯子に登り上から三番目の戸棚を開けて三枚の依頼書を取り出す。


「この三人が【人形攫い】に人形を奪われて依頼してきた者たちだな。この依頼を受けるか?」


「ええ」


「……分かった」


そう言うとウッドペッカーJr.は判子を三枚の依頼書に押してウルルに渡す。


「これが依頼書の写しだ。無くしたらまたここに来たら新しいのをやる」


「ありがとうございます」


少し頭を下げるとウルルは足速にここを出る。


「ねえあそこに誰かいる」


部屋の隅にガサガサと音を立てながらこちらを見つめる者がいた。

ウルルはその場所を見ずに答える。


「あれはウッドペッカーが飼ってる子供だ。目を合わせるな」


鼠は言われた通りに目線を真下に下げてウルルの靴だけを見て移動した。




酒場【ナイト】を出るとウルルは一枚の依頼書を見た。


「まずはこの人に話を聞こう」



鼠の人形探しが始まる。


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