03.人形喰者
少女が酒場【ナイト】の扉を開けるとアルコールの匂いが鼻についた。
大きな酒場には客は数人ほどしか居ず壁には手配書が貼られていて割れた酒瓶や隅っこには誰かが吐いた吐瀉物に新聞紙が置かれていたりした。
少女は数人の客に好奇な目に晒されながらもそれを無視してカウンターの方に向かった。
酒場【ナイト】の店主イーグル=キリングは、自分の店に合わない少女に気づいた。
「そこの人、酒飲めないでしょ」
しかし少女は無視してカウンター席に座る。
「乞食か薬中か。どっちにしろここに来るような奴じゃないね。早く帰んな」
イーグルは顎髭を触りながら話しかける。
「私の人形を探して欲しいの」
少女は唐突に用件を言った。
それを背中で聞きながらイーグルは棚から布巾を取り出して少女に手渡した。
「無知な子供ってわけね。ほら血を拭けよ」
少女が布巾を貰い荒々しく拭いているとイーグルが眼鏡を人差し指で上げながら喋り続ける。
「正直に言って人形は諦めるべきだ。お前さんみたいな子供が取り返せるわけない。ほら夜になる前に帰りなさい」
少女は布巾をカウンターの上に置いて黙り込んだ。
長い長い沈黙が続きイーグルは堪えきれず話し始める。
「あのな?ここはお前みたいな子供が来るような……」
少女はイーグルの話を遮ってカウンター内にある一つの手配書を指差した。
イーグルは少女が指差した方を振り向く。
「ん…なに?この人?」
少女が指差したのは、偶然だった。
手配書の名前に【ドールイーター】と書いてあったので少女は人形に関係する誰かじゃないかと思っただけだった。
「この人なら私の人形探してくれる?」
「……逆だな。こいつだけには頼んじゃいけねえ。お前の人形、喰われちまうぞ」
「食べるの?」
「こいつは人形使いを襲う。もしかしたらお前の人形を奪ったのもこいつかもな」
イーグルが冗談って言ったこの一言を少女は信じた。
少女の目が変わる。
その目は怒りや悲しみなどの感情はまるでなかった。
あるのは黒い殺意と遂行するためには犠牲を出すのは仕方がないという心が目に現れていた。
イーグルはそれに気づきこの少女がただの子供じゃない事を思い知った。
「そのドールイーターはどこにいるの?」
「ここモルグ街にいる」
「その人にはここにいれば会えるの?」
その問いにイーグルは少しの間、答えなかった。
この少女が見てきた光景やその目が出来るまでの経緯を考えていたからだ。
「……会える」
すると少女はカウンターから移動して酒場の隅っこに行き体育座りをした。
イーグルはそんな少女を見て何故、自分が本当のことを言ってしまったのかと心の片隅で少し後悔した。
一時間、二時間と時間が過ぎ辺りも薄暗くなり酒場にも人が増えてきてもドールイーターは現れなかった。
酔っ払った客が少女にちょっかいをかけようと近づくが額の変色した色と瞬きをほとんどしないその目に奇怪なまるで亡霊のような不気味さを感じてすぐに元の先に帰って行く。
三時間が経ち完全な夜になった時、その男は現れた。
その男は黒髪だが少し白髪が混じっていて白のシャツに黒のスーツベストそして黒のコートを羽織っていた。
目は黒と赤のオッドアイで鼻と口を覆う黒の仮面に右手だけ黒の手袋をしていた。
その男の名前はウルル=アルガ。
しかし世間では【人形喰者】と呼ばれている。