01.螺旋は廻る ー①ー
ウルル=アルガが思い出すのは、16年前の日の出来事だった。
9歳のウルルは瓦礫となった家に倒れ込むように座っていた。
右目は何も映さず右頬は焼け付くように痛かった。
ウルルは右手で右目を触ろうとしたが服の袖が微かに動くだけだった。
そこで真っ赤になり風になびく袖を見て自分の右腕がなくなった事を知った。
だがウルルは叫びも取り乱しもせず、ただ目の前の現実を理解せずにいた。
記憶の中では他の喧騒は聞こえず何故か辺りは静かだった。
他の全ては空白で血だらけの自分と目の前にはもう一人の人物しかいなかった。
その人物は金色のお姫様のような人形を操り自分の両親を串刺しにしていた。
その人形の爪は見た目とは裏腹に強靭で人の命を奪うのに最適な形をしていたウルルの右腕と右目を奪ったのもこの男だった。
その男の名前は、グリアドール=アマネスク。
オレンジ色の髪の毛で端正な顔立ち、年齢はおそらく40代前後。
その服装からこの人物が普段、豪勢な生活をしている事が伺えた。
グリアドールが自身の人形に目で合図すると人形はまるで蝿を払うかの如くウルルの両親を地面に叩きつけた。
「こっち側は終わったぞー」
自分の見えない右目の方向から声が聞こえる。
カウボーイハットを被り冒険家のような服装を着ている男。
年齢はグリアドールよりも老けて見えるがそれは顔のせいでもしかしたら同い年なのかも知れない。
この時は名前は分からなかったがウルルが探し出し名前を突き止めた。
この緑色の目をした少しほうれい線が出てる男の名前は、ソルトデイ=アンゲンベルク。
「ああ。こっちもだ」
グリアドールはソルトデイの方を向きながら答えた。
ウルルはこの時、一度も瞬きをしなかった。
この二人の男の顔を脳裏に強く強く焼きつけるためだった。
その殺意の視線に気づいたソルトデイは、ウルルの方をまるで部屋の埃のように見つめた。
「ちゃんと一発で殺せよな。目が開いたままの死体って気味悪いからよ」
「そうかな?僕は逆に目が開いたままの死体っていいと思うけどな。なんか人形みたいじゃないか?」
ソルトデイは帽子をとって長髪の癖っ毛を手ですいた。
「あのなーお前それ嫁さんとかギアルくんに言わない方がいいぞ。うちのパパ、サイコパスキャラだ!とか思われっから」
「キャラじゃないよ」
「うわじゃあサイコパス願望か?昔っからそう言うのに憧れてるもんなお前」
「やめろよ学生時代の黒歴史、思い出さすなよ」
そう言って二人は笑いながら去って行った。
ウルルは理解が出来なかった。
この状況で彼らが笑ってる事やまるで久しぶりにあった友人同士がするような会話も何もかもがこの空間にあっていないとウルルは感じた。
ここまでがウルル=アルガが思い出す記憶の断片だった。
この時から5年の間は、悪夢としてこれを見続けた。
そして次第に子供や人形を見ると思い出すようになり今、現在の25歳になったウルルは食事や睡眠をとる事すら難しくなりこの二人の男を殺す為だけに生きる人形のようになっていた。
ウルルは自分が食事も睡眠を出来なくなる度に自分が人形に近づいてる気がして胃が逆流する思いだった。
そして16年前に生み出された憎しみと復讐の螺旋が今、ある少女と出会う事で廻り出す事をまだ誰も知らない。