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ルミナと夜の店

紹介


ロトス 貴族と騎士が収める王国指折りの大都市

景観 平地には城門が、領城の背後には切り立った山がそびえる。

戦力 マスタクラスのレイピア卿がおり、その戦力は世界でも最高峰。更に、城門には古代兵器のバリスタがある。

特色 南部に位置し、陸海の流通に優れている。王都に次ぐ全ての文化に秀でた都市である

 ロトスは活気のある街。

それは夜であっても同様であり、夜にこそ開き眠らない一角もある。


これからどうするか。


「私ここに来てからお世話になっているところがあります。そこなら平気だと思います」


力になれることが嬉しいのか、気合いの入った様子で案内してくれた。


 歓楽街より奥の、夜の店が立ち並ぶ一角にきた。

(つや)やかな女性たちが、(なまめ)かしく目配せしてくる。


「リクトさん、腕組んで親しげに。私を買ったみたいに振る舞ってください」


やけに積極的だ。

ここの歩き方を知っているふうな。


--まさか世話になっているところってのは口実で、誘われているのか?--


 路地を奥へ奥へ向かう。


「着きました」


「ルミナどうしたんだい」


「匿ってほしくて」


小さく頷き、辺りを見回してから案内された。


「ルミナが訳あり男を連れてくるなんてね。安心しな、取って食おうなんてないから」


 仕事中の女性たちが続々と集まって来る。

みんな石鹸のいい匂いがする。


「へー、あのルミナがねー」

「お兄さん金あるみたいだし遊んできなよ」


腰に付いていたはずの財布がなぜか、女性の手にある。


どこでとられた?

警戒はしている。

この場には集中を乱す術でもあるのか?


「なに?真剣な顔して。そんなフリして、視線逸らせてないわよ」


 きわどい服に身を包み、動く度に包みきれなくなった肌がギリギリのところで露出する。


何が警戒だ。

惚けていただけじゃないか。


「ここへは逃げ込ませてもらったんです。ご迷惑は承知してますが、ふざけている場合じゃないんです!!」


真剣な表情を浮かべるルミナ。

客いじりは、オレからルミナに移っていた。


 女将さんが到着した。

なんとも凄みのある方だ。


「問題ごとを持ち込んだようだね」


ルミナが小さく頷く。


「あいつ絡みか、それともこの旦那のためか」


 どうやら、ここはガスト家で働いていた侍女が多く働いている。

皆慰みものにされ、使い捨てられた。

他の働き口も潰され、ここに流れ着いたらしい。


「いま街じゃ例の弓使いとエルフの関与が騒がれてる。その弓使いがこんな男とはね」


 女性達がざわつく。

この一角には特に、そういった話題がすぐに伝わって来る。

そして、次第に尾ひれの付いた話へと変貌していくのだ。


「ならこの男だけ突き出せば良いんじゃない?報酬も出るとか」

「匿ってることがバレたらことよ」


たしかに。

嫌疑に増して、ガストに楯突いてしまった。

追いかけて来てくれたのは嬉しいが、ルミナを危険に晒したくない。


「オレは良いのでルミナを匿ってあげてください」

「私は良いのでリクトさんを匿ってあげてください」


 鎮まりかえった。

そして、一度笑い出す。


「試すようなことしちまったね。ほら、あんた達も謝っときな」


ここにいるみんなそんな気は毛頭なかったらしい。


 ロトスの現状を少し整理しよう。

数ヶ月前からエルフが不審な動きをしている。

エルフは魔法に長けるが、弓を使う珍しい種族。

そこに、弓使いが現れバリスタ技師と接触。

酒場でギーラは弓使いを放免したが、ルミナとの一件で目の敵に。


ギーラとしては、気まぐれで罠から逃してやった兎が、他の兎と逃げた。

そんな感覚だろうな……


となると、パーズの立場も危うくなるか?


「ルミナ。会いたい人に会えたんだ。この人連れて逃げな」


 たしかにそれも一つの手だった。

無理してここに止まるよりも、街を出た方が収まりが着くかも知れない。

幸い弓も手元にある。


「今動くのはまずい、部屋用意してやるから少し休んでいきな」



 案内されたのは客室だった。


--女将さんも人が悪い。なにか起こっても仕方のない雰囲気だぞっ--


「あ、あのリクトさん。少しでも休みましょう。私カラダ拭いて来ます」


そう言うとルミナはカーテンで仕切られた程度の流し場に入った。

入る前は分からなかったが、そこで光を灯すとシルエットがくっきりと映えてしまう。


--シルエットが……--


 ルミナがカラダを清める音だけがする。

覗くつもりはない。

と意思表示するかの様に、物音を立てずにいた。

しかし、それは間違いだったか。


今更音は立てられない。

じっと息を殺す。

まるで、サイレント映画が情感たっぷり見ている様だった。


「リクトさんもいかがですか?」


出てきたルミナは部屋着に着替えていた。


いや、部屋着か?

先程のお姉さん方が着ていたような、きわどい服だった。


「オ、オレはいい」


早口になる。


「……いや、汗臭いかな?」


ルミナはそっと寄り添い、においを嗅いだ。


--すごく、この服薄い素材だ……けしからん!!--


「いいえ。感じませんが布団に入るなら綺麗な方が」


そうだ。

これは侍女として。

家事のプロとしての冷静な意見だ。


「お手伝いしましょうか?」


「それこそいい!!」


慌てて、カーテンの奥に入る。

綺麗に畳まれたルミナの衣服にドキッとする。


 なまじ先にルミナが入っていたため、シルエットがわからないように、部屋に背を向けてカラダを洗った。


 布団の上で綺麗に正座して待つルミナ。

これからなにが始まるって言うのだ。


「ベッド一つしかないので」


 見渡すと、ベッドの他には椅子もなければ絨毯もない。

さっきまで一人でいたのに全然気が付かなかった。

なにを考えてたんだ。

オレ。


「私は先程休ませていただきましたが、リクトさんはお疲れでしょう」


「あぁ、そうだなぁぁ」


ガチガチに固まった声で返答する。


冬でもないのによく冷える。

その上、ベッドも布団も小さい。


「一緒に寝るのお嫌。ですか?」


ルミナの震えた声。


「カラダを拭いたせいか、少し寒くて」


そうだ。

ルミナは寒いんだ。

震えるほどに。


 決心し布団に入る。

ルミナに背を向けて寝る。

オレの正面は布団からはみ出している。


ぴとっ


優しい感触が背中に当たる。

暖かく、柔らかいものだ。

例えるなら、赤ちゃんのほっぺくらい。


「私はこの背中に救っていただきました

なにもなかった私が、とても素敵なものを得ました」


ルミナの鼓動が伝わってくるような距離。


ふぁさ


全身に布団がかかる。

ルミナはそれ以上はなにも言わず、温かな感触だけが残る。


 一人で緊張していると、寝息と共にするりと触れていたものがベッドに落ちる。


「手だったのか。なんて柔らかいんだ」


 緊張の糸が切れる感覚があった。

少しずつ意識が遠のいていく。


「リクトさんリクトさん。準備が出来たようです」


ルミナは身支度を済ませている。


 営業時間ギリギリで、ちらほらと帰る夜更け前。

客に紛れて抜け出せとのことだ。

慌てて支度をする。


「ゆっくり休めましたか?」


寝た時間はわずかだろうに、驚くほど良く眠っていた。

夢を見た気がするが、今はもう覚えていない。


「世話になりました」


女将さんに伝える。

言葉はないが、視線からルミナを託されたのがわかった。


 他の店もちらほらと明かりが消えている。

お忍びで遊びに来た帰り。

いや、むしろ堂々と。

そんな雰囲気を出しながら歓楽街を抜けた。


 ルミナと再会してから、急展開を迎え、正直この先どうしたらいいのか考えていない。

と言うか、逃げる必要がどのくらいあるのかを理解していないと言った方が正しい。


「ギーラに誤解を解くことはできないのか?」


「それは難しいと思います。弓使い個人の話から、エルフ族との共謀と嫌疑がかけられてしまった以上。ガスト家の力はロトスに絶対的です」


 寝起きの思考不足な頭に、置かれた立場の逼迫性を突きつけられた。


「あそこです。手配してくれた荷馬車と合流しましょう」


荷馬車に乗り込み、街の外へ出る。


 この街に来た目的は果たせている。

バリスタ技師に会い、弓を修復すること。

これで本当に良かったのか?

一抹の不安を感じながら、遠のく街を見る。

ご覧いただきありがとうございました。

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