異世界召喚
オレことリクトは激しく混乱している。
仕方ない、いきなり知らない場所に立っているのだから。
「ここはどこだ……」
辺りには祭壇らしきものがある。逆にそれ以外は何もない。
ファンタジー好きなら、これからどうすれば良いか分かるのだろうが、あまりの出来事に頭が回らない。
「異世界召喚か?それなら、何かしらの案内があっても良いのに」
あいにくと、なんの案内もなければ、召喚者もいない。
あるのは、趣味にしていた自分の洋弓だけ。
考え抜いて出した答えは単純なものだった。
理由や目的は分からない。
あるものだけでどうにかするしかない。
祭壇を後にし、外を目指していた。
気が付いたことは、少しばかり身体機能が上がっているようだった。
走っても疲れないし、目も良く見える。
わずかな物音も聞こえる……
ん?これだけ?
特別なスキルとかは他にないのか?
「ステータスオープン」
「いでよ炎。物よ浮け」
なんの反応もない。
平然と納得して見せるが、すごく恥ずかしいことをした気がする。
何より、がっかりだ。
感覚が鋭敏になったことで、未知への恐怖心が湧き上がっていた。
弓を組み立て、警戒しながら進む。
地上へ出ると、そこは草原だった。
少し離れたところに木が生えているが、他には見渡す限りの草花のみ。
「こんなところでサバイバル生活だと?」
不安を覚えつつも、全方位に広がる世界が胸を高鳴らせていた。
「ハンティング。狩りだ。オレには弓矢がある」
なんのためにここにいるかは未だ分からないが、なんのために弓があるのかは分かる。
とにかくこの世界で生き抜く術を養わなくては。
よぉし、やるぞっ。
練習をするには30mくらいがちょうど良いだろう。
木に向かって矢を射る。
矢が痛まない程度の練習をやった。
弓矢の取り扱いに異変はなく、感覚も悪くない。
そして、気持ちは高まり調子だ。
どうやら、周辺には生き物の生活の跡がある。
花に止まる蝶や蜂、遠くに飛ぶ鳥たちは現実世界のものと変わらないようだ。
ならば、小動物や草食動物がいても不思議はない。
周辺探索を終え、本格的に狩りに取り組むことにした。
草むらに隠れ、息を殺し、獲物の出現を待つ。
しかし、期待とは裏腹に獲物は現れない。
待ち時間で眠気が襲ってくる。
「いつになったら獲物なんてくるんだ?眠くなってきたな」
完全に集中が切れたころ。
やっと、獲物が現れた。
「鹿みたいなやつだな。なんにせよ、的が大きくて助かる」
鹿型は随分と警戒している。
まるで、事故現場に仕方なくきた。
くらいの警戒心だ。
ここはなにかの縄張りなのか。
とにかく、せっかくの獲物。
逃しはしない。
ゆっくり慎重に弓を構えた。
まぁ、慣れたものだから、大きな音を出すことも激しい動きもなくやれる。
脱力して……
射る体勢に入るやいなや。
鹿型はこちらに気付き、一目散に逃げていった。
「ん?目立っちまったか?」
まぁ、初めから上手くいくとは思っていない。
気を取り直し、さらに待つこと数十分。
今度はスライムが来た。
いるだろうとは思っていたが、水の塊が動いているなんて。
「もう一度チャレンジだ」
今度はしっかりと狙えているぞ。
今だ。
シュン
ヒュー
スパッ
「よし!!」
恐る恐る近づき観察する。
スライム内を循環していた液体が徐々に弱っていくのが分かった。
「やったか?なんか止まったし」
どうやら仕留めたようだ。
スライムは消え結晶が出て来た。
これは金か経験値かな?
これぞファンタジーの醍醐味だ。
「少し興奮しすぎたな。一度戻るか」
初めての狩りを終え、召喚された場所へと戻ってきた。
ここは暖かくて安心する。
ふっ、こんな状態で安心なんて肝が座ってるな。
オレは。
結局何もわからないままその日が終わった。
「おっ、これなんか食えそうだ」
匂いが良いと言うか、なんとなく確信のようなものがある。
腹が弱いのくらい、どうにかなってるといいんだが。
梨みたいなもんかな。
「あんっ。美味い!!思えばめっちゃ腹減ってたし、喉渇いてたんだ」
祭壇を基点に、行動範囲を広げていた。
清流に実のなる木々を発見し、なんとか食を確保した。
はぁ。食べた食べた。
さて、また狩ってみるか。
「ん?なんだこれ」
スライムを射た矢が被膜を帯びている。
「これは腐食か?あるいは…毒?」
知らずとはいえ触ってしまった。
が、いまのところ体に異常はない。
「この矢使ってみるか。なんかあるかもしれないしな」
木に放ってみた。
がどうだろう。
変化はないな。期待しすぎか。
しばらく狩を続けてわかったことは、ここの生き物はすごく警戒心が強いようだ。
集中が切れた頃にやっと出てくる。
その上で動きの遅いスライムくらいしか仕留められない。
使える矢が全てスライムの被膜を被った頃だったか。
冒険者らしき一団が草原の向こうからやって来るのが見えた。
「歓迎、それとも警戒か」
弓矢を握る手に、汗が滲むのを感じた。
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