招集と祝賀パーティー
ヒドラ
百年前にロトスを襲った伝説の魔獣
三頭に五尾の爬虫類ベース
相当数の人員と、大型兵器、あるいは大儀式魔法を駆使しなければならぬ程
ヒドラ出現前後、ロトス周辺では謎の爆発や破壊の他、渡り鳥などが見られないと言った不可解な事件がおきていた
今、柄にもなくフォーマルな格好をしている。
オレ達はヒドラ討伐の件で、ロトス領主にし招集されていた。
各々が相応しい礼装に着替えているところだ。
「さぁ。着替えが終わりましたよ」
はぁぁ……
はっ、今すごくマヌケな顔していたぞ、オレ。
青いドレスに身を包んだセルフィー。
知性と聡明さが際立ち、スレンダー体型からは嫌味のない色気が漂っていた。
エルフの代表として、どこに出しても恥ずかしくないだろう。
ルミナは……
女とはこうも化けるものなのか。
ルミナにはパステルの柔らかいイメージだった。
しかしどうだ?ワインレッドの淑女然とした出立ち。
大人びたルミナにドキッとした。
「ギャップ萌え……」
「はい?なにかおっしゃいましたか?。リクトさん?」
着飾っても、いつも通りのルミナが返事をする。
「い、いや。なんでもない」
動揺を隠しきれないオレを見て、照れるルミナ。
続けて、自信なさそうに言う。
「リクトさん、すごく素敵です」
「私は似合ってますか?」
くるりと回転し、上目遣いするあざといルミナ。
--似合いすぎだぁぁ--
固まるオレを見て、セルフィーが笑う。
「しかし、なぜこんなことになったのでしょうか?」
ヒドラ戦の功績だと言うが、ここまでされる言われはない。
分からぬまま、謁見の間に通された。
そこには、領主、傍にはあの笑みを浮かべた女騎士が待っていた。
ズラリと屈強な兵士が立ち並ぶ。その中にギールの姿があった。
ん?アイツが末端?
作法も分からぬまま、一応平伏した。
「此度の働き見事であった。あれは、このロトスと因縁深き魔獣であった。よくぞ討ち果たした。英雄リクトよ」
領主から賛辞の言葉をもらう。
英雄?
疑問はあるが、とりあえず平伏を続けた。
「あー、いいよ。顔上げてよ」
傍らの女騎士がフランクな口調で言う。
「いやー、本当感謝してるのよ。私が居ない時を見計らって攻めてくるんだもの。焦ったわー」
ケタケタと笑いながら、話の主導を握る。
「はぁ、フェイよ。わしが厳格な挨拶をしたのに、ぶち壊すでない」
女騎士のペースになり、厳格な雰囲気が崩れた。
「こほんっ。名乗っていなかった。ワシがロトス領主のエアルド・オルシャンである。ここな騎士が、かのレイピア卿……」
「フェイソングガストよ。よろしくね」
あのマスタクラスのレイピア卿か
確かに文献では、王や領主とは全く別の権利を有すると書いてあったが、ここまでとは。
「あー、違うのよ。ここ実家みたいなものだから」
ん?ギールも領主の血縁か?
それで末端だと?
オレの思考が、上手く繋がらない様子を汲み、フェイが続ける。
「この場を設けたのは、ギールの愚行を謝罪するためでもあるの」
そう言うと、ロトスの情勢を話し始めた。
ロトスに暗躍の影あり。
フェイが内定中、功に焦ったギールがエルフを嫌疑にかける。
暗躍者の誘導であったことがわかり、フェイはアジトを掃討しに。
フェイ不在を狙い、ヒドラ来襲。
これが簡単なあらましだった。
「ガスト家はロトス城下を預かる身。その筆頭が敵の術中にハマるとは愚の骨頂。あまつさえ、エルフを窮地に陥れるとは。恥を知れ」
先程までの雰囲気とは打って変わり、面前で叱責する。
「セルフィーの兄はワシの部下にして良き隣人である。この場への招集をかけたが、"街を救ったのはセルフィーだ"と返しおった。ゆえに、エルフの処遇は其方の意見を聞きたいのだ」
セルフィーは少しの間思案し、淀みなく返答した。
「我々は多くは望みません。エルフの寿命は長い。それゆえに自然の中以外では安住できません。このロトスが、エルフにとって安住の地であれるように望みます」
「セルフィーよ。よくぞ申してくれた」
「見事」
その後、ギールの処遇が決まり、謁見は終わりを迎えた。
祝賀の宴が開かれた。
「いやはや、英雄リクト殿。楽しんでいただけてますかな?失礼、私ロトス内政長のブラシルと申します」
領主の傍にいた一人だった。
「領主は今回の件ひどく胸を痛めております。まずは、労いの場として設けたこの宴をお楽しみください」
「うははー、飲んでるかー」
細い腕に絡め取られた首が力強く引きつけられる。
「レイピア卿?」
「いんや、フェイで良いよー。んーやっぱり、フェイ姉さんとお呼びー」
陽気も陽気、どれだけ酒を飲んでいるのか。
「リクト殿はどこの英雄だ?マスター以外でヒドラ級の魔獣を打ち取れるものはそうはいないぞ」
「そんな、オレはなんとか一頭を相手にしただけです」
「謙遜は良い。が、良くないぞぉ。あれは間違いなく偉業なのだから」
脇に挟まれ振り回される。
「けほけほっ!!リクトで良いです。フェイ様」
凍る様な視線で敬語を改めさせられる。
終いにはタメ口に落ちつかされた。
「リクト。お前に見せたいものがある。明日にでも私のところに出向いてくれ」
「見せたいもの?」
「あぁ。だが、これは機密ゆえ……」
なんだろうか。
全然とっかかりがなくて検討が付かない。
「それより、お前はどちらが相手だ?」
ルミナとセルフィーに視線を向ける。
「どちらとも、出会って間もない人だ。特別な感情などない」
「ほほー、では私が入ってもまだ大差ないわけだな
どうだ?」
そう言うと、二人の方へかけ寄る。
ルミナの助けを求める視線を感じたが、危害や悪意はなさそうなので、そっと見守った。
周囲の目が三人に集まるのが分かる。
それほどまでに、三人のいるあの一角が華やかなのだ。
遠くから眺めながら、酒を飲み干す。
きっついな、この酒は
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