ヒドラ撃破
紹介
バリスタ ロトスの外壁にある城塞兵器
外観 鋼鉄造りのパイルドライバー方式
歴史 100年前に出現したヒドラに対し用いられた兵器。整備調整だけされていた。50年程前までは試運転されていたが、蒼金の不足から"不動兵器"と揶揄された
レールを走る金属音が近づいてくる。
「ん?なんだ?」
「待たせたな」
パーズと門兵が壁面トロッコに乗り、滑走して来た。
「無事だったか。あんたにも嫌疑がかけられて心配していたんだ」
「この街で生きてる奴はやわじゃない。お前なぞ関係あるか。それよりヤツをやるんだろ」
続けてバリスタが、城壁を滑る様に稼働してくる。
「こいつは驚いた。どうやって運ぶのかと思っていた。移動式とは」
パーズとバリスタ兵士が得意げな顔をする。
「無駄話は後にしろ。放てー!!」
指揮官の号令によりバリスタ。
機械仕掛けが駆動音を鳴らす。
「ここだぁー!!」
パーズの操作により、バリスタが発動する。
弓と言うより、パイルドライバーだな。
放たれた矢がヒドラの巨大な胴を貫いた。
流石のヒドラもこの攻撃には再生が追いつかない。
矢で杭が打たれたまま、三頭が枝垂れる。
「おぉー!!」
一同歓喜の勝どきを上げる。
しかし、まだ終わってはいない。
そうだ、三頭の核を同時破壊が条件だったはずだ。
逆上し身動きの制限される中、三頭がバリスタを破壊にかかる。
「やはり止まらないか。この機を逃したら終わりだ。畳み掛けるぞ」
兵士達は最後の力を振り絞り好戦する。
「セルフィー、指揮官。お前たちは左を。地上は右をやらせる。中央はオレがやる」
同時に攻撃するとなると至難だ。
特に、地上で戦うギール達とは情報共有が出来ていないのだ。
どうにか合図になるものがあれば良いが。
懸念はあるもの、余裕はない。
食い止められている間が勝負だ。
--リクトさんっ!!--
ルミナの声が頭に響く。
振り向くと、遠くからルミナが駆け寄ってくる。
明らかに声の届く範囲ではなかった。
「どうしてここに?いや、それよりも今のは?」
「目に見える範囲なら、少しですが念話を送ることが出来る。わたしが唯一得意な魔法なんです」
最高のタイミングで、最後のピースが嵌まる。
この感じ、ルミナ自身も力の使い時をわかっていたのだろう。
「……ルミナ、君が合図を出すんだ」
不安そうな顔を浮かべながら、頷く。
「ご武運を」
言いたいことを堪える様に、涙ぐみながら拳を握り締めるのが分かった。
覚悟の表情で、お守りにと渡した大蛇の破魔矢を突き出して来た。
無意識のうちに、子供をあやす様にルミナの頭を撫でた。
行ってくる。
言葉にしないまま、ヒドラへと向かった。
城壁から、右頭の首を射ち抜いた。
右頭は地面に杭を打たれた。
だが、残る二頭によるバリスタへの攻撃は止まず、もう少しで破壊されてしまう。
ルミナ、セルフィー、頼んだぞ。
城壁からバリスタに飛び降りる。
ヒドラがもがき猛狂う振動が伝わって来る。
殺気を放ちながら頭部へと歩み寄る。
中央の頭がオレを標的と見定めた。
「プライ」
矢を召喚し、核を外し、頭部の器官を狙い射っていく。
ヒドラの動きはだんだんと動きが鈍くなる。
よし。
狙い通り感知が鈍って来た。
他の戦況は?
左頭はセルフィーを中心に魔法攻撃で上手くやっている。
右頭は杭のため、優勢に攻撃出来ているが、決定打に欠ける。
ルミナの声が頭に響く。
「みなさん、合図を出します。そしたら一斉に核を破壊してください」
地上部隊はなにがなんだかと状況をわかっていない様子だったが、ギールはこちらの意図に気が付いた様子で、すぐに魔力を練り始めた。
これでいい。
破魔矢をつがえ、ゆっくりと射に入る。
落ち着いてる。
今までは一人で戦って来た。
今は、出会って間もないが、同じ目的で戦う同士がいる。
今は多くの人と関わったこの街を守りたい……
「いまです」
三方から攻撃が放たれ、それぞれが核を撃ち破る。
粒子が夜空を舞っていく。
「やっと終わった。長い夜だった」
「リクトさーん」
城壁からルミナとセルフィーが顔を出して手を振っている。
バリスタから地上へ降りる。
兵士が倒れている中、ギールも座り込んでいる。
なんと声をかけていいかわからないが、とりあえず手を出すと、握り返し起き上がった。
「きさまの嫌疑が晴れたわけではない。あのエルフもだ」
たしかに、魔獣を討伐はしたものの、なにも解決はしていなかった。
ルミナとセルフィーが追いついてきた。
ギールは2人を睨みつける。
「ルミナ、君がいて本当に良かった。セルフィーもすごい実力者なんだな」
そう言うと、2人は訝しそうに
「リクトさんの方が」
「リクトの方が」
と。
「一人で何回頭部を撃破したのか」
「相性が良かっただけだろう」
「少なくとも、伝承級の魔獣だったわ」
戦闘終わりだと言うのに、元気だな。
そう思いながら、軽く流し聞いていた。
そろそろ夜明けになる。
この魔獣をどうすればいいのか?
ん?魔獣が消えない?
このサイズだからか、それとも格の違う魔物だからか?
疑念がよぎる。
頭部が鼓動し動き始めるのを感じた。
「みんな、下がれ。まだ何かあるぞ」
もたげた首が再生を始めた。
その瞬間、鋭い一閃が三頭を両断した。
そして、首の付け根を串刺した。
人が立っている?
「私の不在に良くやった。この手の魔獣の核はここにある。覚えておくといいぞ、諸君」
朝焼けを背にニコリと笑う。
巨大な魔獣は朝日と同化し、その猛者の姿は消えた。
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