プロローグ
テンポの良い話を目指していきます。
オレことリクトはこの世界に召喚されて、初めての街で酒と食事を楽しんでいた。
「うまい!!この世界の料理がこんなにも口に合うなんて!!これだけできた甲斐があるんじゃないか。」
そうだな。
今思えば、はしゃぎすぎていたのかもしれない。
勢い余って、荷物を倒してしまったのが原因だった。
「おい。にいちゃん。まさかとは思うがそりゃ弓か?」
嘲った調子で、肩に腕を乗せ悪絡みしてくる。
はぁ、これがラルド達が言っていたやつか……
「な、なんでしょうか?ご迷惑をかけてしまいましたか?」
「ああ?迷惑も何もねーよ。ただなぁ、ここは冒険者が集う酒場なんだわ。化石みてーな臭いがしてくせーんだわ」
「おお?なんかくせーと思ったら、なんだこりゃ?骨董か?なにオタク骨董商でもやってんのか?」
絡んでくるなり、理解に苦しむような罵倒を浴びせられている。
語彙力がツラい。
馬鹿にするにも、もう少しましな言い回しはないのか。
「不愉快にさせたのなら謝ります。もう出ますんで」
憤りを覚えつつ、この世界の暗黙を汲みその場を去る。
あぁ。
実に不快な思いをしたものだ。
せっかくいい気分で食事していたものを。
「くそ!!」
「どうした。にいちゃん。今のはまさかオレらに対してじゃないよな?」
ご丁寧に店から付けて来たらしい。
街はずれの路地に追い込まれて行く。
果たしてこれからどうなるのか。
答えはだいたい見当がつく。
元居た世界では見なくなった、カツアゲ状態だ。
こちらが抵抗をしないことを良いことに、蒼金を換金し作った金を奪い去っていく。
金を奪われ、凄まれたのはなんの問題ではなかった。
それよりも大きな危機が迫って来るのが分かった。
ガルルッ
獣の声が街の外から近づいて来る。
これはやばい。
この鳴き声はグレイハウンドじゃないか?
やつらはまだ気が付いていないのか?
闇夜に怪しく反射する眼光は、確実にこちらを狙い定めていた。
五.六匹はいる。
どんどんと獣の臭いが濃くなってくる。
近づかれたら終わる。
急いで弓を組み立てる。
もうすぐそこまで来ている。
しかし、冒険者達はまだ気が付いていない。
闇夜を前に緊張感が走る。
「プライ!!鹿矢だっ」
人を狙うなと言われてきたんだが。
しかし、むやみに動かれても困るし。
仕方ないな。
射に入り狙いを定める。
同時に周囲に息苦しい程の殺気が広がる。
冒険者達が、血相を変えこちらに振り返る。
彼らの脂汗が顔面を覆うのが分かるほど、冷静に表的を見据えていた。
「このやろ、闇射ちしようってか!!」
抜剣し、身構える。
しかし、遅い。
事態の把握が出来ていないなら、むしろ邪魔でしかない。
「動くな!!死ぬぞ」
一応の勧告はするが、冒険者は足が竦んで動ける状態ではなかった。
こちらの殺気に触れたハウンド達が、狂気を帯びて襲いかかってくる。
中央から三
右舷から二
左舷一
中右左とタイミングをズラし、なんとも知性的な波状攻撃だ。
逃げてはくれなかったか。
完成された射型から、矢が放たれる。
冒険者をすり抜け、中央一匹を穿つ。
核を突き抜け、ハウンドは消滅。
もう一匹はその光景に怯んでいる。
右舷から回り込んできた三匹は、退路を潰すように後方へと回り込み揺動する。
そして、左舷から来る最も大きい個体が突っ込んでくる。
「こいつが本命か」
距離が詰まり、狙いが付けづらい。
しかも、額の核に狙いを定めさせないよう、切り返しながら迫る。
だが、弓は焦ると負けなんだよな。
切り返しの予測地点に構える。
集中力が研ぎ澄まされ、スローになっていく。
視野が広がり、見えないはずの方位まで知覚できるほどに。
近距離で戦う武器じゃない。
連射できる武器じゃない。
そもそも、動く的に射る様な精密さはない。
だが、オレには弓矢しかない!!
シュッ
パリン!!
断末魔と共に、核の崩壊により身体が霧散していく。
それは夜に映える火花の様だった。
すぐさま次の矢をつがえ迎撃態勢に入る。
しかし、頭を失ったグレイハウンドに最早戦意はなかった。
構えた矢を取り囲んだハウンドの足もとに射ち込む。
こちらを伺いながらたじろいでいく。
はぁ。大丈夫そうだな。
筋肉の緊張と、視線をはずす。
それを待っていたかの様に、残りのハウンドは一斉に森へ帰って行った。
「お前なにもんだ……」
始めの矢に腰を抜かしていた冒険者達が、恐る恐るに訪ねてきた。
「ただの弓矢使いだ。オレにはこれしかないんだ。どんなに弱い武器だろうと」
「だが、あんたらに弓矢を馬鹿にされる筋合いはない!!」
まるで、雑魚キャラかの様に逃げ帰る冒険者達。
ご丁寧に奪い取られた金も置いていってくれた。
横では、プライが魔物の吸収を終えていた。
「さぁ、オレらも帰るか」
なんか柄にもないこと言っちまったな。
冒険者達への捨て台詞を思い出し笑ってしまった。
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