#9
夕方、太陽は公園のブランコに乗って、キィ・・・・・・キィ・・・・・・と静かに揺れていた。先日、彼に助けられた子犬が、太陽の靴をクンクンと嗅いでいる。
「もう諦めよっかな・・・・・・華凛ちゃんの事」
子犬が寂しそうに呟く太陽を見上げた。太陽は子犬の頭を優しく撫でた。
「そいや、お前、まだ名前決めてなかったな。んー、そうだな・・・・・・ナツとかどうだ? ここなつき公園だから」
「全く、センスないわねぇ」
「・・・・・・!!」
突然の声にハッとして見上げると、そこには華凛の姿があった。太陽はバツが悪そうに彼女から視線逸らす。
「な、なんだよ・・・・・・またいちゃもんつけかよ」
「そのワンちゃん、太陽が助けたんだってね。優ちゃんから聞いたよ」
華凛は子犬に近づき、しゃがんで頭を撫でる。
「だから何だよ・・・・・・」
「いいとこあるじゃん」
「え・・・・・・」
ぶっきらぼうに答える太陽を見上げ、華凜がほほ笑む。思ってもいなかった彼女の優しい笑顔に太陽はドキッと胸を高鳴らせた。
「ねえ、もう諦めるの?」
華凛は立ち上がって太陽に背を向ける。
「え?」
突然の問い掛けにキョトンとする太陽に振り向く事なく、華凜はそのまま続けた。
「本気で好きだっていう気がまだあるんだったらさ、最後まで貫き通してみたら?」
「・・・・・・!!」
含みのある華凜の言葉に、太陽は驚いた顔で彼女の背中を見つめた。
数日後。快晴の青空の下、桜華学園の第二グラウンドではラグビー部員達が優大を先頭に列を成して内周をジョギングしていた。練習後のクールダウンだ。
「よーし、今日の練習はここまで。グラウンドに挨拶じゃ!」
「はい!」
優大の号令でジョギングを終えて部員達が大声でグラウンドに挨拶する。
ベンチに座っている華凛は新入部員登録表と書かれたノートにペンで新入部員の名前を書き込んでいる。しかし、その中に太陽の名前はない。
「よし、新入部員はこれで全員か」
優大が汗を拭きながら華凛の前に来て、少し寂しそうに呟く。
「あいつ、今日も練習来んかったの・・・・・・」
「もうあんな奴どうでもいいわ。結局根性無しなのよ。大事な約束なんか、平気で破る奴なんだから・・・・・・」
華凜は太陽の話題に眉をひそめてノートをパタンと閉じた。
「大事な約束? ワシは、ちと期待しとるんじゃがの。あの稲妻のような鋭いステップ・・・・・・あんなに打たれ強くてタフな奴はそうおらんぞい。それに動物が好きなやつじゃ!」
しかめっ面の華凜と目を輝かせて話す優大の二人のもとに近づく足音が一つ。
「まあ・・・・・・でも、思いは行動で表すもんでしょ?」
華凛が腕を組んで顔を膨らます。それと同時に、止まる足音、そして、
「たのも~~~~~~~!!」
太陽の威勢の良い声がグラウンドに響く。華凛と優大が驚いて声のする方を見る。
「た、たのもぉ? て、あんた・・・・・・太陽⁉」
二人の目の前には、爆発金髪アフロをバッサリと短髪に切ったジェットモヒカン姿の太陽がいた。もみあげから襟足を刈り上げトップは長めの金髪が剃り立つ様がまるで燦燦と照る陽光のようだ。太陽は優大に向かって、バッと頭を下げる。
「俺に、ラグビーを教えて下さい!!」