#8
それから放課後のグラウンドでは太陽の挑戦が始まろうとしていた。華凜が堂々と腕を組んで太陽と対峙している。太陽と華凛の周りには、二人の対決を見ようと野次馬が群がっていた。
華凛はラグビーボールを正面に放り投げ、それをキャッチする太陽。
「いーい。そのボール持って五十m先のゴールラインにトライできたら太陽の勝ちよ。この最強のフォワード陣、桜華三連山を抜いてね」
「桜華三連山?」
華凛の背後から『桜華三連山』と呼ばれた、朝倉、青島、龍崎の三人が現れる。彼らは背丈が低いが横に太い体付きをしており、まるで重戦車のようだ。
(なんだ、こいつ等は! 背は小させぇが横にデケー!! 肉だるま見てぇだ)
太陽は三人の重戦車の迫力に怯み、ゴクリと息を呑んだ。
「あんなのとまともに激突したらそれこそ病院通り越して墓場行きだぜ・・・・・・」
良からぬ想像をしてしまい、太陽の足が竦む。華凛は太陽が動けないのを見て、
「あら、どうしたのかしら? 怖気付いて足が竦んでるじゃない」
鼻で笑って挑発する。
(どうせ立ち向かう勇気すらないんだから)
「う、うるせー」
そこに優大が野次馬の中から、ひょっこりと顔を出して現れる。
「おお、やっとるのぉ~。太陽クン、この間ワシにやったみたいにドーンとじゃ、ドーンと行くんじゃ!」
未だ震えの止まらない太陽は、優大の声援を受けて声のする方を見る。すると野次馬の中で拳を揚げている優大を見つけた。
(ドーンとって・・・・・・くそぉ、でもここでやらなきゃまたあの時と同じだ・・・・・・)
体育館裏でぽつんと独り、俯いて待ち惚ける華凜の姿が太陽の脳裏によぎる。
(今度こそ、ここでチャンスを掴むんだ! じゃなきゃ、あれから前に進めねぇ!)
太陽はグッとボールを力強く握り締めると地面を強く蹴り上げた―――。
そして真っすぐに桜華三連山に立ち向かって行く太陽。
「えっ、嘘・・・・・・本気?」
優大と野次馬が一気に注目する。華凛も太陽の行動に驚き、胸にあてた手を握り締める。
「おおおおおおおおおお!!」
朝倉と青島の二人が、激走する太陽を止めようと、彼に向かって横並びで突進して来た。
そんな間近に迫る朝倉と青島に、カッと目を見開く太陽。
(・・・・・・見えた!)
「……!!」
「なっ……!!」
太陽は朝倉と青島の隙間を縫うように、稲妻のようなステップで鮮やかに抜き去った。これには思わず驚き、振り返る朝倉と青島。そして華凜と優大もまた驚愕の表情を浮かべていた。
「どうだ、俺はどんな狭い隙間でも僅かにありゃあ見逃さねぇのさ!」
太陽は得意気にニヤリと笑みをこぼし、そのまま右へステップを踏む。
「横がガラ空きだぜっ! 足には自信があるんだ。お前らのその体型じゃ俺には追いつかねえ。この勝負、貰ったぁ!」
「甘いぜ!」
「何ぃ!?」
勝利を確信していた太陽目掛けて、竜崎がまるで砲弾のように飛び掛かってきた。
「いいっ!!」
「その脚力は認めよう! だが、桜花三連山は三人で一つ! 二人に気を取られていたお前にオレは死角と見た!」
「うおっ!」
太陽は竜崎に両足の太腿をガッシリと掴まれてしまい、彼のタックルで豪快に倒される。
太陽の快進撃を一瞬で覆した竜崎に野次馬達も息を呑む。
「さ、さすが桜華学園ラグビー部。伝統ある強豪校だけに、もの凄いタックルだ」
重量級のタックルをまともに喰らってしまった太陽は、グラウンドで大の字になって気絶してしまっていた。
「・・・・・・・・・・・・」
そんな太陽を見下ろして、華凜は物悲しそうに見つめていた。