#6
「あ、あいつは! サクラちゃん、ちょっとここで大人しくしてて。お兄ちゃん、すーぐ戻って来るから」
驚いた優大はサクラに優しく話し掛けた後、公園の入り口にあるベンチにケージを置いた。そして突如走り出し、不良達に向かって突進していく。先程の温和な表情とは打って変わり、恐ろしい熊のような顔で不良達に怒声を放った。
「おい、お前らぁ! そこで何しとんじゃあーい!!」
不良達は向かって来る優大に気付いて焦る表情を浮かべた。
「げっ、桜華の巨人!」
「に、逃げろ! あいつはヤベー」
彼らは慌てふためいて一目散に逃げていく。優大は荒い息を吐きながら、不良達が去っていったのを見送った。
「大丈夫か?」
優大はボロボロになった太陽を心配するようにそっと抱き起こした。そんな太陽はゴホゴホと咳をしながら、苦笑いを浮かべる。
「さすが・・・・・・あいつら、あんた見ただけで逃げて行きやがった。華凛ちゃんが好きになるわけだぜ」
「ん?」
太陽の言葉に優大は、はて、と首を傾げた。
それからしばらくして、ようやく起き上がれるようになった太陽は、ベンチの傍にある手洗い場で子犬の落書きされた顔を洗っていた。子犬も嬉しそうに尻尾を振っている。
「がははははははは・・・・・・。ワシが華凛と付き合っとるじゃと?」
「まさか、イトコだったなんて・・・・・・」
ベンチにどっかりと座る優大が腹を抱えて笑う。太陽は自分の勘違いに顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに呟く。
「それより、お前、優しいんじゃのおー」
「いや・・・・・・俺はこんなのが許せないだけで」
優大が大人しく洗われている子犬を優しく見つめる。太陽は照れくさいのを隠すように唇を尖らせる。
「でも暴力で解決しようとするのはいかんなぁ」
(アンタのも脅しだろ)
チラッと横目で優大の巨躯を見上げる。にこやかな優大の笑顔が温かく見えた。
「う・・・・・・でも、誰かが守ってあげなきゃ、こいつみたいに弱い奴が救われないだろ? これが、俺なりの正義」
「正義、か・・・・・・」
「な、なんだよ。今時クセえってのか?」
「いや、そういうの、ワシも好きじゃ。のぉー、サクラちゃん」
優大は微笑みながらケージのサクラを眺める。サクラは優大に応えるようにコクコク頷く。
(なんか、スゲー違和感・・・・・・)
太陽は優大とサクラを交互に見て汗を垂らす。
「十五人が相手を尊重し合い、協力して自分を上回る相手を打ち破る」
「ん? って、ラグビーのことかよ・・・・・・」
優大は急に真顔になり、真っすぐに遠く広い空を見つめる。
「そうじゃ。個々は弱くともお互いを助け合う正義が無限の力を発揮させる、とな」
「ふーん・・・・・・でも、なんか、カッコイイな、それ。ラグビーって、そんなもんなのか?」
「それは実際にラグビーに触れなきゃ分からんもんじゃ。どうじゃ、お前もグレイトな男になってみんか?」
ラグビーに興味を示した太陽に、優大は親指を立ててニカッと白く輝く歯を見せた。