#4
「どらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鬼気迫るような気迫と勢いで、優大目掛けて猛突進して来る太陽だったが、
(・・・・・・・・・・・・‼)
目前に突き出た優大の巨大な手の平に気付きハッとする。
「あっ・・・・・・!!」
太陽の爆発金髪頭をボムッと押さえる優大の手に、それを唖然と見つめる華凜。太陽は優大に頭を押さえられながらも諦めずに走り続けるも、全く動けずにその場で土埃を上げるだけだった。
「ふぬぬぬぬぅぅぅ~~~~~~~~」
「がはははは。不意打ちは卑怯者がするもんじゃぞ、一年坊。男なら正々堂々と真正面から向
かってこんかい」
華凜は豪快に笑う優大と太陽を見比べる。
(これじゃあ、大人と子供のじゃれ合いじゃない・・・・・・)
優大に押さえられて動けずにいる太陽を見つめ溜め息を吐く。
(たく・・・・・・身の程を知れっつうの。チームの花形、ナンバー8(エイト)を背負う優ちゃんに勝てるわけ、ないじゃない)
「ぐっそぉ・・・・・・」
敵わないと気付いていながらも、太陽は歯を食い縛りながら優大を押し続けていた。
夕日に染まる住宅街をトボトボと小さく丸まって歩く太陽の背中があった。
「くそぉ・・・・・・何が優ちゃんだ。あんなのに俺が負けるはずが・・・・・・」
唇を尖らせる太陽の目の前にヒラヒラと落ちてくる桜の花びら。
「ん?」
花びらに気付き、ふと見上げると満開に咲いた桜が見える。太陽は静かに桜を眺める。
(思えば、俺の桜はずっと枯れたまま咲きゃあしねえ・・・・・・幼稚園の頃からずっとだ―――)
太陽の目に、じんわりと涙が滲んだ。
『太陽は幼少期の時期を思い返す。まだ幼く可憐な女の子だった華凛がクラスの園児達の前に立って転入の挨拶をしていた。
「はじめまして。おくやまかりんです。みんな、よろしくおねがいします」
そんな華凛に、太陽はうっとりと見惚れていた。
(その頃の転校生ってのはなんか新鮮な感じで、その時初めて夢中になれたのが、奥山華凛)
小学生に上がった太陽と隣同士の席に座る華凛。彼女の隣で太陽はガチガチに緊張している。
(でも近くにいればいるほど緊張して喋れなくて・・・・・・あー格好悪い、俺)
中学生になり、体育祭のリレー種目。太陽がバトンゾーンで前走者を待ち構えていた。待っている間に太陽の横を一人、二人、三人とどんどん走者が駆け抜けていく。それに遅れて華凛がバトンを持って、最下位で走って来た。その瞳には涙を浮かべて・・・・・・。
太陽は「大丈夫、俺に任せろ」と華凛からバトンを受け取ると一気に猛ダッシュした。一人、二人と抜いていく。華凛や観客から湧き上がる歓声。皆、興奮して叫んでいる。
ついに太陽が三人目を抜いて、一着でテープを切ってゴールした。
(これがきっかけで少しずつ喋れるようになったんだっけ。最初は何でも笑顔で応えてくれて。でもあの日から・・・・・・)
華凛が体育館裏で独りポツンと立っている。太陽に呼び出され、彼を待っているようだ。彼女も彼の気持ちを察してか、少し落ち着かない様子で地面を見つめていた。
彼女を呼び出した当の太陽は、体育館裏の物陰から華凛をソワソワしながら見つめていた。緊張もピークに達し、足がガクガクと震えていた。』