#10
グラウンドに立ち籠る砂煙。前回の華凜の時と同じように、ボールを持った優大と対峙する太陽。華凛は向かい合う太陽と優大を見つめていた。
「がはははは・・・・・・。爽やかになったのぉ。じゃが、無断欠席はいかん」
「うぐ・・・・・・」
痛い所を突かれて一歩 後退る太陽に、豪快に笑う優大がラグビーボールを放り渡す。
「入部祝いじゃ。このワシを抜いてトライを決めてみい!」
「えっ!?」
ボールを受け取った太陽は困惑の表情を見せる。
「そのぐらいの覚悟決めて戻って来たんじゃろう? 次は、真正面からじゃ」
ニッと白い歯を見せて、太陽を真っすぐ見つめる優大はドンと胸を叩いた。
(・・・・・・最後まで貫き通してやるさ。それが、俺の想いだ)
あの日、夕暮れの公園で華凜に言われた言葉が太陽の脳裏に浮かんだ。太陽は華凛を見つめて頷き、自身の気持ちを奮い立たせる。それからグッとしっかりボールを握り締めて優大に曇りのない眼で真っすぐに見据えた。
「い、行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
覚悟を決めた太陽の足が大地を蹴る。立ちはだかる優大に真正面から向かって行く。
「太陽・・・・・・」
華凜が期待と心配の入り混じった瞳で太陽を見つめる中、
「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ドォォォンと激しい衝突音を立て、太陽が優大に激突する。凄まじい衝撃が走り、太陽の視界は徐々に辺りが真っ白になって行く―――。
―――視界が薄っすらと戻って行くと、どこかの天井らしき光景が太陽の目にぼんやりと映った。
「気がついた?」
すぐ真横から華凜の声がした。太陽が横を向くと、ベッド脇の椅子に座り、こっちを見つめる華凜の顔が次第にはっきりしてくる。どうやらあの後、意識を失ってそのまま保健室に運び込まれていたらしい。
「全身が、頭が割れるように痛い・・・・・・」
太陽は起き上がろうとするが、全身の激しい痛みと骨が軋む感覚で、起き上がれずにずるっと力が抜ける。
「そりゃそうよ・・・・・・トライ決めるまでって、何度も優ちゃんにぶつかって行くんだから」
少々呆れた様子で華凜は優大と太陽の幾度に亘る激突を思い返す。
光速の稲妻ステップで優大を翻弄し抜き去ろうとする太陽に、背後から巨大熊が襲い掛かるような強烈なタックルを喰らって吹き飛ばさる。それでも太陽は立ち上がった。そしてまた吹き飛ばされる。それでも太陽は諦めずに何度も立ち上がった。優大から何度弾き飛ばされようが、太陽は咆哮を上げ、何度も何度も・・・・・・。
「―――最後まで貫けって、言ったの誰だよ」
華凜の呆れ顔を見て、ムスッとした顔をしてそっぽを向く太陽。
「・・・・・・高校生になって、少しは成長したか」
「なっ・・・・・・・・・なにを!」
華凛の言葉にムッとなった太陽は、彼女の方に勢いよく顔を向ける。すると華凜は椅子から立ち上がり、
「部員名簿、名前書いといたから」
そう言って椅子から離れて入口へ向かった。
「えっ……?」
キョトンとする太陽を背に、華凛は戸をスライドして開け、去り際に一言、
「ラガーマン、五十嵐太陽。なかなか、カッコよかったぞ」
彼に振り返って可愛らしい笑顔を見せた。
「あっ……!!」
華凜の不意打ちに顔を赤くする太陽。華凛は保健室から出て行き、戸を閉めた。
太陽は照れ臭そうに窓の外に目をやった。花びらがはらはらと舞い散る桜の木を眺める。
(まだほんの蕾かもしれねぇけど・・・・・・あの子が夢中になれるもんに少し触れられた気がする)
「よっしゃあ!! こうなったらとことんやってやるぜ。目指すは、甲子園だぁ!!」
太陽はグッと拳を固く握り締めた。そして気合を入れて勢いよくベッドから跳ね起きる。が、その拍子にベッドから滑り落ち「どはっ」と床に体を打ち付けた。
「花園でしょ・・・・・・もう」
戸を背にして、どこか嬉しそうに微笑む華凜。
向かい窓の外に見える満開の桜。その中にある遅咲きの小さな蕾が春風に揺れていた―――。
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