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01 陰キャ、転移する

 パソコンの電源を消す。

 オンラインゲームの日課レベリングを終え、動画を数本視聴した。

 ここ最近、放課後はずっとこんな感じだ。勉学に勤しむのでも、部活動に精を出すのでもない。

 高校に入って早四か月… 中学のときに思い描いたキラキラした高校生活…… そんなものは無かった!

 何にも変わらない日々! むしろ中学の友達がいないだけ高校の方がクソだ。

 

 まあ敗因は分かっている、受動的すぎたのだ。もっと積極的に行けばよかった…  はぁ…

 いや、もう後悔しても遅い。なってしまったものは諦めよう… 一人生活を楽しむとしよう。 

 そう思い深夜一時、床に就くのであった。



  □ □ □



「ふあぁ~」


 ゆっくりと、意識が奥から表層に浮き出ていく。 脳は動いているが、体が動かず目が開かない……

 寝返りうつ… ん…? 布団はどこにいった?

 頭らへんが寂しい… 枕はどこにいった?

 そう思い手で布団とかを探す……  ん? ちょっとまて… 草……?

 

 ————目をゆっくり開ける


 まず目に入ったのは深い緑の葉、天を覆いつくしている。

 横を見ると、木が沢山。巨木がいくつも連なっている。 

 地面は草。起き上がると体に大量の草がくっついていた。


「スウゥゥゥーーー… 夢か…」


 そう思い、再び横になった。

 起きたら突然森にいるなんて夢に違いない。いや、そうであってくれ。きっと、もう一度目を覚ましたら俺の部屋にいるはずだ……


 「グルオアァァァァ!!!!」


 突然の咆哮に目が覚める。

 音の方向を向くと、そこには目が一つしかない獰猛な獣がいた。

 獣は俺の姿を認識した瞬間、こちらに向かって走り出した。


「————!!!!???」 


 さっきまでのだるい体が嘘みたいにキビキビ動く。

 夢であると、理性が言っているが、本能は『逃げろ』と信号を出す。

 本能に従い、奥に全速力で逃げる。


「はぁ… はぁ… なんだあれ… 」


 木々を掻き分け、全力で進む。 枝が肌を掠って痛い。

 全速力を出しているが、差は縮まっていく…

 このまま逃げても絶対追い付かれる… ならば…!

 

 大きな木を右に曲がった後、荒くなった息を抑え、深い茂みに身をひそめる。

 こうすれば、獣は俺が曲がってそのまま奥に逃げたと勘違いするはず…


 獣が後ろから大きい足音を立てて、凄い速度で走ってくる。

 心音が高まる… 緊張する… バレたら終わる。


 獣が巨木を通り過ぎて、数秒後… 獣が動きを止めた。

 獣はキョロキョロと辺りを見渡している…… きっと、木を曲がったら俺の姿がなくなったのを見て困惑したのだろう。

 クソっ! 微妙に賢い!


 そして、獣は俺の隠れている巨木を怪しんで、近づいてきた。

 まずい、流石に近づかれたらバレる!   ……ならば、イチかバチかだ!

 その辺に転がっている石を音がしないように、かつできるだけ距離がでるように俺が逃げてきた方向へ投げる。


「グルォ!!」


 獣は石の着弾した方に再び走りだし、それと入れ替わるようにこっそりと俺は再び逃走を再開した。



   □ □ □

 


 鬱蒼とした森林、果てが見えないほどの広さ… 空を草木が覆い、光を塞いでいる。

 暗い森の道、陰鬱とした空気が包み込むようだ。 

 いるだけで疲弊してくるような森、そこに俺は迷い込んでしまった……


 「なんで俺はこんな場所にいるんだ…?」


 あれから何体か謎生物を発見したが、隠密に徹し無事に生存できている。

 今は草に身を屈めて、息をひそめて隠れている。

 何故この世界に来たのか…? どうやって来たのか? そんなことを考える。

 確か… 昨日は普通に寝て、目が覚めたらこの森の中にいた。何の前触れもなく突然いたのだ。 

 そしてこの森には単眼の獰猛な獣、空を飛ぶ眼球、巨大なコウモリ…… 空想でしか見たことのない生物が沢山いた。

 夢なのではないかと来た瞬間は思った、だが痛みはしっかりあるし寝ている感じがしない……

 だが現実にしてはあまりに非現実…… 


「グルゥゥゥ…」


 獣の唸り声が聞こえる…

 ここに何故きたのか、どうやってきたのか… そんなことは後でも考えられる。今は生き残ることを考えよう。そう思い、気持ちを切り替えた。


 さてどうする…? 下手に動けば獣に気づかれる… かといって動かないと現状は動かない。

 こっそりと移動をするか… どこに行く? この森のどこに向かえばいいんだ? 方角も全く分からない、せめて空が見えれば方角は分かるんだが… いや方角が分かったってなんなんだよ、地図なんてねぇよ。

 

「とりあえずまっすぐに移動するか」


 理論上こうすれば森を抜けられるはず…  森の奥に進む可能性もあれば、森を抜けれる可能性もある… こればっかりは運だな。

 唸れ、俺の運!!  夢だったらさっさと覚めてくれ!

 神頼みをしながら、移動を開始した…… 



   □ □ □

 

 

 あれから数時間、徹底的な隠密をしなんとか移動ができていた。


「はぁ… 森から出られる気がしない… 」


 体は汚れ、擦り傷があちこちにできている。気温はそうでもないから汗はかいてないが、なんというかこの森特有の重い空気が体に溜まっている感じがする…

 足取りが重い… 体力の限界も近い… これ、絶対夢じゃない… だって夢だったらもう覚めてもおかしくない… もう疲れた…


 体は限界が近いが、歩みは止められない。停滞は死、今止まったらもう動けない気がする。


「はぁ…  ん…?」


 変わらなかった森の景色が変わった。

 広い、木々がない場所に出た。

 天を覆った葉はなく、綺麗な夜空が見える。


「なんだ… ここは?」


 広い場所の中央には、泉があった。

 

「水…」


 数時間の移動で、喉はカラカラだ… 体が水を欲している。

 弱弱しい足取りで、水へと向かう。

 一歩一歩確かな歩みを進めていく。

 水… 水が飲める……!


————ん? 何かがいる… 泉の傍に…


「ガルル……」


 そこにいたのは、数時間前に俺を襲った単眼の獣だった。


「はぁ… どうやら俺も終わりのようだな」


 呆然と立ち尽くしてしまった… こんな広い場所で逃げれるはずもない…

 もう、体力の限界だ… ここで終わろう。

 きっと、どうせ夢なんだ。死んだらきっと目覚めるはず…


 獣は俺を視認するや否や、猛進してきた。


 あっ、まって、やっぱり怖い! やだ! 死にたくない! 夢じゃねぇだろこれ!

 嫌だァァァァぁァァァァ!!!!!


 後ろに転倒して、尻もちをついた。


 予想される痛み、惨状から背けるために目を瞑った… 視界が真っ暗になる…

 目覚めか、死か…  目覚めでほしい… だがこの数時間のリアリティ… 多分死ぬと予期できる…

 目覚めろ! 目覚めろ! 目覚めろ! 目覚めろ! 目覚めろ! 目覚めろ! 目覚めろ! 目覚めろ! 

 頼む、夢であってくれぇェェェェェェ!!!

 

「死にたくなあぁいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃ!!!!」

 



「—————『ティッド・エレス』ッ!!!!」




 奥から、何かが聞こえてきた。澄まされた、美しい声…

 そして、落雷の音がした。


 恐る恐る… 目を開けると、そこには丸焦げになった獣の姿があった。


「大丈夫?」


 こちらに向かって、一人の少女が歩いてきてる…

 夜空が彼女の美しい金髪を輝かせている。逆行となり、景色と相まって幻想的に思えた。

 少しぶかっとしたローブを着て、大きな杖を持っている。

 それこそ、漫画やアニメの魔法使いがそのまま現実に現れたような……


「これは… あなたが…?」


「そうだ」


「あ、ありがとうございます…」


「何、礼には及ばない。助けを求める声が聞こえたから…」


 端整な顔立ちをした彼女は、こちらに手を差し伸べてくれた。


「立てる?」


「大丈夫です…」


 手伝ってもらって、立ち上がる。

 男として少し情けなさを感じて、恥ずかしい。


「うわぁ、擦り傷とかが酷いねぇ… 『ヒーリング』…」


 端整な顔立ちの彼女が、体の傷の部分に手をかざす。

 するとその傷が緑色の淡い光を発しながら塞がった。


「なんだこれ… 魔法…?」


「…? そうだけど、それがどうしたの…?」


「あっ いえ、なんでもないです」


「————」


 静寂が生まれる…

 会話が止まってしまった。

 まじまじと、顔を見てみる… すごい美人だ… 今までにあったことないくらい美人だ…

 目が合った。照れて顔をそらしてしまった。


「あの… 名前を教えてもらってもいいですか?」


 勇気を出して名前を聞いた。


「私の名前はエリン=クレイドルよ、キミは?」


「俺は伝導 駆です」


「デンドウ カケル… 珍しい名前ね」


 カケルが珍しい名前… 魔法の存在… 見たことない生物… 


「一つ質問いいですか?」


「ん、なに?」


「これは夢ですか…?」


「何いってるの?」


 夢じゃない、夢じゃないんだ… 

 生きてる、生きてるんだ…


「いえ、夢じゃないなら結構です…」


「そ、そうなの」


 俺、本当にこんな美人の人と喋ってるんだ… 

 

「この森からはどの方向に行ったら出られるんですか?」


「ああ、大丈夫だよ。私も帰るところだったからね、転移の魔法で帰れるよ」


「本当ですか…?」


「うん、じゃあ手を繋いで~ それで転移できるようになるから」


「そ、そうなんですか…」


 エリンの手を握る。思わずドギマギしてしまう… だってしょうがない陰キャだもの…


「じゃあいくよ。『テレポート』!」


————瞬間、視界が暗転した。



   □ □ □



「はい、着いたよ」


 一瞬のタイムラグの後、見慣れない街にいた。

 噴水のある広場、周りには中世風の建物が立ちならんでいる。しかし、夜だからか人通りは少ない。



「うわ… 本当に一瞬で…」


 驚いてるのを俺をよそにエリンは歩き出した。


「じゃあ、また縁があったらよろしく」


 そう言ってエリンは去って行った。

 

 俺はその場で数分手を振りながら立ち尽くしてしまった。


 エリンさん… 綺麗だったな…

 命まで救ってもらって、あの危険な森から出してもらった。

 あんなにやさしくて…


 

 これが、恋なのか………?



 いくら何でも惚れやすすぎるだろ… 俺… 

 ちょっと命を救ってもらって、ちょっとやさしくされて、ちょっと治療を受けて…

 

 あの人をもっと知りたい。 エリンさんをもっと知りたい…

 これが一目惚れってやつか…  付き合いたい…

 

 でも、あんな人俺には合わないんじゃないか…? 俺には無理なんじゃないか?



『まあ敗因は分かっている、受動的すぎたのだ。もっと積極的に行けばよかった…』



 そうだ、待っていたらいつまでも出会いはない。

 こっちからグイグイ行かなきゃいけない……


 異世界デビューをしよう。初恋だ、これが初めての恋なんだ…  諦められない。

 なんとしてでも彼女を作ってやる…!

 好きな人を… エリンさんを手に入れてやる……!!


————こうして、陰キャの挑戦が始まったのだ!




「ヤベェ 今日どこで寝よう……」

 

 覚悟した直後、噴水の前で少年は絶望した。


恋愛小説?に挑戦です。

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