表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ラブソングス

婚約破棄されたから、婚約者に全力で罵声を浴びせてやった

作者: 間咲正樹

「エレナ、大事な話があるッ!」


 ――!

 私の婚約者であるディンゼル第二王子が、夜会の最中に突如声を荒げた。

 は? 大事な話?


「今この時をもって――僕は君との婚約を破棄するッ!!」


 ――!!!

 はああああああああ!?!?!?

 婚約を破棄だああああ!?!?!?


「ど、どういうことですかディンゼル様……」

「まったく、愚かな行いをしているという自覚すらないとは、とんだ痴れ者だな君は!」


 っ!?

 ……なんだと?


「フレンダに対する数々の嫌がらせ、身に覚えがないとは言わせないぞ!」

「ディンゼル様、私が悪いのです。どうかエレナ様を責めないでくださいませ」


 ――!

 男爵令嬢であるフレンダが、ディンゼル様にしなだれかかりながら上目遣いを向けた。

 こ、これは……!


「ああ、可哀想なフレンダ。エレナにそう言うように脅されているんだね? こんな心の優しいフレンダを陰でコソコソイジメているとは、吐き気を催す邪悪な行為と知れ、エレナ! 君は僕の婚約者には相応しくない! 修道院にでも行き、自らの愚行を生涯を賭けて反省するんだな!」


 その瞬間、フレンダが私にだけ見える角度で、勝ち誇ったようなゲスい笑みを向けてきた。

 ……なるほど、そういうことね。

 泥棒猫(フレンダ)のハニトラに、まんまとバカ(ディンゼル)が引っ掛かったってわけだ。

 …………そういうことなら、ね。


「――うるせええええええええええ!!!!!」

「「「――!?!?」」」


 こっちも容赦しねーぞ。


「お前みたいなバカとの婚約なんて、こっちから願い下げなんだよこのチビデブ王子がッ!!!」

「チ、チビデ、ブ……!?」

「その割には王子っていう権力に笠着て、いろんな女に粉かけやがってよ!! どーせフレンダの牛みたいなだらしない乳に即堕ちしただけなんだろこのオッパイデブッ!!!」

「オッパイデブ!?!?」

「ちょっと! 不敬ですよ、エレナ様ッ!!」


 ウゼえなぁ。

 お前はあとでたっぷりディスってやるから大人しく待ってろよ牛女。


「あととにかく自慢話がウザい。お前フェンシングの大会で二位になったこと何回自慢すりゃ気が済むんだよ!? しかも二位てッ!! せめて一位になってから自慢しろやッ!!! そんなんだからお前はいつまで経っても第二王子なんだよこの第二デブ!!!」

「第二デブッ!?!?!?」

「エレナ様ッ!?!?!?」


 よし、そろそろトドメだな。


「そして話好きなくせに絶望的に話が下手。さっきのフェンシングの話する時も、相手選手が長男だったか次男だったか必死に思い出そうとしてたけど、別にこっちからしたら相手が何男だろうと関係ねーんだよッ!! そこフェンシングに関係あんのかッ!? 本編と関係ない(くだり)を延々聞かされるこっちの身にもなれやこのド下手王子!!!」

「う、うわああああああん!!」

「ディンゼル様!!!」


 遂にド下手王子は人目も憚らず泣き出した。

 よし、次は牛女の番だな。


「それからお前だよフレンダ」

「……ヒッ!」


 牛女は蛇に睨まれた蛙みたいな表情で身構えた。

 心配すんなよ。

 全力で叩き潰してやっからよ。


「私はなにも知らないウブな生娘でございみたいな顔しやがって。お前が腹黒い蛇女だってことは、こっちはとっくの昔に気付いてんだよ!」

「へ、蛇女!?」


 まったく、牛だったり蛇だったり、忙しい女だぜ。


「大して暑くもないくせに、いつも暑い暑い言って胸元ザックリ開けただらしないドレスばっか着やがって。そのドレス同様だらしない乳で今までも男を誘惑してきたんだろこのだら乳令嬢!!」

「だら乳令嬢!?!?」


 乗ってきたぜ!


「あとお前のよいしょ待ちの姿勢ホント嫌い。令嬢同士のお茶会のたびに、なにかにつけて『私ってホントブサイクだからぁ』とかよく言うけど、あれ『そんなことないですよ! すっごくお綺麗じゃないですか!』って言われるの内心待ってんだろ? バレてんだよこのよいしょブサイク令嬢!!」

「よいしょブサイク令嬢!?!?!?」


 さてと、トドメだな。


「中でも私が一番イラッとしたのはあれね。お前最近王都に引っ越してきたばかりの令嬢に、『王都のことだったら私になんでも訊いて。いいお店とか案内するから』ってドヤ顔でマウント取ってたけど、お前も二ヶ月前に王都に引っ越してきたばかりのド田舎モンじゃねーかよこのいなかっぺ令嬢ッ!!!」

「う、うあああああああああ!!!」


 いなかっぺ令嬢は頭を掻きむしりながら膝をついた。

 ふう、スッキリした。

 ……これで私も不敬罪で、最悪死刑かな。

 まあ、後悔はしてないけど。


 ――その時だった。


「ブラボー!!!」

「「「――!?!?」」」


 突如仰々しく拍手をしながら、誰かが私たちの前に颯爽と現れた。

 見れば、それは第一王子であり、王太子殿下でもあらせられるルドルフ様だった。

 なぜルドルフ様が!?

 チビデブな弟と違って、高身長の甘いマスクに流れるようなサラサラのブロンドヘア。女性に対してのエスコートも完璧な上、趣味が編み物というギャップ萌え要素もありッ!!

 全令嬢の憧れの的のルドルフ様がいったい……!?


「――エレナ、先ほどの君の罵倒、実に見事だったよ」

「っ!?」


 ルドルフ様は恍惚とした表情を浮かべながら、私の前に片膝をついた。

 ルドルフ様!?!?


「是非今後は私に、穴が開くほどの罵声を毎日浴びせてほしい。……いいかな?」

「っ!?!?」


 ルドルフ様は私に右手を差し出された。

 えーーーー!?!?!?!?

 ひょっとしてルドルフ様って、()()()()()()がおありだったんですかあああああ!?!?!?!?

 ……どうりでこれだけの良物件にもかかわらず、未だに婚約者がいらっしゃらなかったはずだわ。

 王太子殿下に堂々と罵声を浴びせられる令嬢なんて、そうそういないものね。

 ……ふふ。


「私なんかでよければ、喜んで」


 私はルドルフ様の右手に、自らの左手をそっと重ねた。


「――ありがとう。一生大切にするよ」

「お、お待ちください兄上! その女は陰でコソコソフレンダのことをイジメるような痴れ者ですよッ!」

「痴れ者はお前の方だディンゼル!!」

「なっ!?」


 ルドルフ様は私の手を取ったまますっと立ち上がると、バカ弟に氷のような眼差しを向けながらそう言った。

 おっと?


「お前は然るべく裏を取ってからそう判断したのか? ただの憶測で言っているわけではあるまいな?」

「そ、それは……」


 おお、流れ変わってきたな。


「むしろフレンダ嬢のほうこそ、こそ泥の如く陰でエレナの私物を盗んでいたそうじゃないか」

「「「――!!!」」」


 えっ!!?

 そうだったの!!?


「君のおばあ様の形見のネックレスが紛失したと、先日嘆いていたねエレナ?」

「え、ええ……」

「――そのネックレスがフレンダ嬢の自室から先ほど見つかった」

「「「――!!!!」」」


 なっ!?!?

 ルドルフ様は懐から、緋色に輝くネックレスを取り出した。

 ――嗚呼、まさしくあれは、おばあ様の形見のネックレス。

 ルドルフ様はネックレスを、大事そうに私の手の上に置いてくれた。

 ふと、こそ泥令嬢のほうに目線を向けると、こそ泥令嬢はマッハで目を泳がせながら、滝のような汗を流している。


「最近ディンゼルに君が色目を使っているという報告が、私の部下から入ってね。念のため君の素性を調べさせたところ、君は故郷で何度も盗みを繰り返した結果、故郷にいられなくなり、半ば逃げ出すように一家揃って王都(ここ)に引っ越してきたそうじゃないか」

「そ、それは……」


 うわあ、そういうことだったのかよ。

 やっぱクズはどこまでいってもクズなんだな。

 クズ令嬢は観念したかのように、その場で(くずお)れた(クズだけに)。

 ううーん、これぞ自業自得。


「――さて、これでエレナの疑いは晴れたな、ディンゼル」

「あ、あう、あうあ……」


 あうあうあじゃねーよ。

 人間の言葉喋れよ豚が。


「……まあいい。ああそうだディンゼル、お前からは王位継承権を剝奪するから、そのつもりでな」

「「「――!!!!」」」


 おおおお?


「なっ!!? なぜですか兄上ッ!!」

「そんなこともわからないのか? お前は王家が決めた重要な婚約を、身勝手な理由で一方的に破棄したのだぞ? 本来なら死罪となってもおかしくないほどの愚行だ」

「あ……、ああ……」


 あー、言われてみれば確かに。

 なんだ、そういうことならもっとディスっとけばよかったかな。


「と、いうわけで、お前とフレンダ嬢には、地下牢の中で死ぬまで囚人たちからクソつまらない話を聞く係になってもらう」

「兄上!?!?」

「そ、そんな!?!?」


 うわあ、地味に辛いなそれ。

 まあ、これでクソつまらない話を延々聞かされる側の気持ちも、少しはわかるっしょ。


「――連れていけ」

「「「ハッ」」」

「あ、兄上!! 兄上ええええ!!!!」

「いやああああああ、弁護士を呼んでよおおおおおおお!!!!!」


 呼ばねーよ。


「――さて、エレナ、よかったら早速私のことを、軽く罵ってみてもらえるかな?」

「はい。――この金髪豚野郎ッ!!!」

「くふぅ!」


 ――ハッピイイイイイイイイエエエエエエエンド!!!!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
応援バナー
(バナー作:「シンG」様)

バナー
(バナー作:「石河 翠」様)
(女の子はPicrewの「ゆる女子メーカー」でつくられております)
https://picrew.me/image_maker/41113
― 新着の感想 ―
おおお(⊙⊙)‼ 第二王子。 >エレナ! 君は僕の婚約者には相応しくない! 修道院にでも行き、自らの愚行を生涯を賭けて反省するんだな! からのぉ~ >こっちも容赦しねーぞ。 エレナさんの見事なカウンタ…
[気になる点] 囚人たちの話は地味に面白そうなものが多そうだから、ボケたご老人のふがふがした話を聞き続ける奉仕活動なんてどうでしょうか。 社会貢献できますよ!
[良い点] 今回もめちゃくちゃ面白かったですw! この高揚感を何と表現して良いのか。 ともかく物凄く笑いながら読了しましたw あー、すっごくスッキリしました! [一言] テンポが良くて素晴らしい! 私…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ