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甘えたがりのぐうたら彼女に、いっぱいご奉仕してみませんか?  作者: ひなた華月
第2部2章 後輩ラプソティ
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2-9 夢羽叶実は先輩になりたいっ!③


「さあ、津久志つくしくん! 遠慮せずにおいで!」


 セーラー服姿の叶実かなみさんは、期待を込めた目で僕を見つめてくる。


 何故、こんなことになっているかというと、叶実さんが『先輩らしい振る舞い』をしたくなった結果、辿り着いた正解が僕に膝枕をするというものだったからだ。


「いえ、遠慮せずに、と言われても……」


 だが、叶実さんの期待を裏切るようで申し訳ないが、とてもすぐに実行できることではない。

 躊躇してしまう僕の気持ちは、きっと他の人が同じ状況になっても理解してもらえるはずだ。


「もう! 恥ずかしがらないでおいでよ! ほらっ!」

「わわっ!?」


 しかし、叶実さんはソファの横で座っていた僕の手を引っ張って、無理やり膝枕の体勢にさせたのだった。


「か、叶実さん!?」

「ほら、やってみると気持ちいいでしょ?」


 そして、見事膝枕をさせることに成功した叶実さんは、そっと僕の頭に手をそえる。


 僕は呆然としたまま笑顔を浮かべる叶実さんの顔を見上げることしかできない。

 ただ、その微笑みが、いつもより大人っぽく見えてしまった。


「えへへ、こうしていると、わたしもなんだかお姉さんになったみたいだなぁ」


 そう言いながら、叶実さんは僕を見つめて、ゆっくりと髪を撫でるような仕草をする。

 それがくすぐったくて、僕は思わず顔を逸らしてしまった。


「!?」


 だが、それが余計に、僕の鼓動を刺激することになってしまったことに今更ながら気付いてしまった。


 スカート越しからでもわかる、柔らかい叶実さんの太ももの感触が伝わってくる。

 それに、普段はパジャマ姿なので殆ど見たことがなかった、スラリとした足が露出されている。


 以前、出版社のパーティーの際に、ドレスアップをした叶実さんの姿も足まではそこまで露出が激しいものではなかった。


 意識をしては駄目だと思っても、どうしても意識をしてしまう。

 これじゃあ落ち着くどころか、僕の平常心が持たない。


「あ、あの、叶実さん! 僕はもう大丈夫なんで……」


 なので、僕は叶実さんの膝枕から退却するために顔を上げようとしたのだが、


「だーめ。今日はわたしが津久志くんのこと、いっぱい甘やかすんだから」


 そう言って、叶実さんは僕が逃げることを許さなかった。

 もちろん、物理的には僕だってその気になれば、いくらでもここから離れることは可能だ。


 だけど、叶実さんの膝枕というのが、僕に不思議な魔力を与えているのか、自分の身体が金縛りにあったかのように動けない。


 まさか、これが膝枕の効果なのだろうか。

 だとしたら、なんて恐ろしい行為なのだ……。


「ふふっ~。津久志くんは、いい子いい子~」


 しかし、叶実さんは楽しくなってきたのか、僕の頭を優しく撫で続ける。

 これじゃあ、後輩どころか猫のような扱いだ。


「どう? 津久志くん。頭を撫でられるのって、やっぱり嬉しい?」

「……えっ?」

「だって、愛衣ちゃんは好きって言ってくれてたんでしょ?」


 ああ、そういう話の流れで、今こんな状況になってしまったんだっけ?


「えっと……やっぱりちょっと照れます……」

「ええっ~。恥ずかしがることないと思うけどなぁ」


 素直な感想を口にしてみたけれど、叶実さんはその間もずっと僕の頭を撫で続ける。


「でも、愛衣あいちゃんの気持ちは、わたしもよく分かるかな」

「そうなんですか?」

「うん。わたしも、よくお父さんに褒めてもらうときは、頭を撫でて貰ってたから」

「叶実さん……」


 何気ないようにそう言った叶実さんは、少し僕から視線を外して、遠くのほうを眺めるように顔をあげた。


 叶実さんにとって、お父さんは特別な存在で、唯一の叶実さんの家族だった人だ。


「あのね、津久志くん……。わたし、最近よくお父さんと一緒にいたときのことを思い出すの」


 そして、叶実さんはぽつぽつと、優しい声色で僕に話しかける。


「津久志くんと会うまではね、わたし、お父さんのことを思い出すが嫌だったの。なんだか胸の奥がぎゅってなって、苦しくなるから……」


 叶実さんは、僕の頭を撫でる手とは反対の手を、自分の胸に添える。


「でもね、最近は全然そんなことなくて、むしろ、お父さんのことを思い出すと、嬉しくなってくるの。あー、こんなことがあったなぁって、自然と笑えるようになって……」


 そして、叶実さんはほほ笑んだ顔を僕に向けながら、告げる。



「これも、津久志くんが一緒にいてくれるお陰だと思うの。わたし、津久志くんが毎日いてくれるから、すっごく楽しいんだ」



 えへへ、といつもの調子で笑い声をあげる叶実さん。

 だけど、僕はそんな叶実さんの姿をみて、胸の奥がじんわりと熱くなる。



「ねえ、津久志くんはどうかな? わたしと一緒に暮らすようになって、楽しい?」



 顔を覗き込むようにして、そう問いかけてきた叶実さんに対して、僕ははっきりとした口調で答えた。


「ええ、楽しいですよ」


 それは、僕にとって揺るぎのない本音だった。


 叶実さんと過ごした半年間は、大変なこともあったけど、思い出すだけで自然と笑顔になれる。


 もし、叶実さんも同じように思ってくれているのなら、僕にとっても喜ばしいことだ。


「ふふっ、そっかそっか~」


 叶実さんは、嬉しそうにしながら、もう一度、僕の頭を優しく撫でる。



「ありがとね、津久志くん」



 そして、何気なく言った叶実さんの一言と共に。

 今日の出来事は、僕の甘い記憶として残ることになったのだった。



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