2-5 放課後ティータイム①
次の日、入学式もあるということで、僕たち2年生は半日で授業が終了する。
ただ、小榎さんから誘われて、放課後は『オルレアン』の喫茶スペースにやって来ていた。
ちなみに『オルレアン』に行く前に、商店街の定食屋さんにも寄っている。
なかなか渋いチョイスのお店だったけれど、理由は小榎さんらしいもので『学校の人たちが絶対に来ないような場所』だからだそうだ。
けど、そのお店も小榎さんのような学生が来ることが珍しいようで、僕たちに対しても凄く優しくしてくれた。
そして、それはこの『オルレアン』も例外ではない。
「やあやあ津久志くん! 昨日の今日なのにまた来てくれるなんて、すっかりウチの常連さんになってくれたね~」
店員のお姉さんからそんな風に声を掛けられる僕だったけれど、それよりも質問攻めにあっていたのは小榎さんのほうだった。
「それより琴葉ちゃん~。今日は津久志くんと一緒なんだねぇ。ふふっ、いいカンジでお姉さんも安心してるよぉ~」
「ち、違います! い、いえ! 良くしてもらっているのはそうなんですけど、瀬和くんとは……」
「いいのいいの! お姉さんはバッチリ応援させて貰うから!」
「だ、だからそういうんじゃないんですってば!」
店員のお姉さんにからかわれている小榎さんを助けることもできず、僕は黙ったまま彼女たちの会話を聞いていた。
「まあまあ、あとはお二人でゆっくりしていってくださいな。お姉さんはお仕事に戻りますよ~」
そういって、僕たちを喫茶スペースへと案内したのち、お姉さんは厨房と思われる場所へと消えてしまった。
「もう……楓子さんにも困ったものですね……」
はぁ~、と珍しくため息を吐く小榎さん。
楓子さん……風間楓子さんと小榎さんは、僕が『オルレアン』に訪れる前からの知り合い……というよりは、小榎さんは元から常連客の1人だった。
しかし、小榎さん曰く、楓子さんと仲良くなったのは、僕が原因らしい。
というのも、僕が小榎さんと仲良くなって、春休みのときに小榎さんに誘われて『オルレアン』でお茶をしたときに、当然お姉さんもお店にいて、僕たちを見たお姉さんは、それはもう目を輝かせながら質問を畳みかけてきたのだった。
一応、誤解は解けたものの、楓子さんの探究心は未だに解消されていない。
しかし、箱庭さんからも言われた通り、やっぱり他人から見ると、僕たちはそんな関係に見えてしまうのだろうか?
どうみても、僕と小榎さんでは全然釣り合わないと思うんだけど……。
「……あの、どうしましたか、瀬和くん? 私の顔に何かついているのでしょうか?」
「ご、ごめん!! なんでもないよ……!」
不思議そうな顔をする小榎さんだったけれど、お水を持ってきた楓子さんのおかげで、あまり突っ込まれずに済んだ。
僕はコーヒーとタルトを、小榎さんは紅茶にチーズケーキを頼んで、注文を待つ。
その間の会話は、もちろん『ヴァンラキ』のことであった。
「いやあ、紙で読んでみると、最終巻の味わいがまた違って感じたんですよ。いえ、素晴らしいことに間違いはないのですが、これを言葉で表すのは難しいというか――」
意気揚々と話す小榎さんの話を聞きながら、途中で楓子さんが持ってきてくれたケーキセットを口にしていると、時間はあっという間に過ぎていく。
そして、一通り話し終えると、今度は僕の話題になってしまった。
「ところで、瀬和くんの小説はどうなんですか?」
僕の小説、というのは、誰でもライトノベル作品を投稿できる『ライトノベルを書こう』というサイトで、僕が投稿している作品のことだ。
高校に進学したと同時に始めた投稿は、最初の頃こそ期待と不安に満ち溢れていたのだけれど……。
「ああ……うん……、相変わらず誰も見てくれないというか……全然というか……」
つまり、簡単にいえば全く人気が出ていなかった。
「そうですか……。私は面白いと思うんですけどね……」
しかし、小榎さんは僕を励ますように、そう呟く。
「やはり、今ではWEB小説で人気を獲得することも難しいのでしょうか……」
本当に残念そうに言ってくれる小榎さんの言葉が、今の僕には何よりも嬉しいものだった。
それに、人気はないといっても、昔みたいに毎日PV数が0を表示するわけではなく、ぽつりぽつりと読んでくれる人はいるようだった。
まあ、それも2ケタくらいなのだけど、千里の道も一歩からというし、落ち込んでばかりもいられない。
「瀬和くん、私も、何かあれば協力しますよ。こうやって、お話してくれるだけでもいいですし……いえ、違いますね……」
しかし、小榎さんは言い淀むようにして、途中で話を止めてしまった。
どうしたのだろうか? と思っていると、小榎さんは下を向きながら、僕に言った。
「わ、私が瀬和くんにいつも助けて貰っていますから」
助けて貰っている?
僕が、小榎さんの?
「……はい。私、今まで学校ってそんなに楽しくない場所だったんです。ですが、こうして瀬和くんが友達になってくれて、他のみんなと同じように、お出かけしたりして……」
そして、感慨深そうに、小榎さんは告げる。
「この前、いつも私を指導してくれる事務所の先生も言ってくれたんです。私の『声』が、最近は凄く楽しそうになってて、演技の幅も広がりそうだって……」
そう言ってくれた小榎さんは、胸に手を当てる。
「だから、瀬和くんには感謝しています。私と友達になってくれて」
小榎さんは、僕の目をじっと見つめながら、そう告げた。
その瞬間、僕は恥ずかしさのあまり、彼女から目を逸らしてしまいそうになる。
だけど、僕はそれをなんとか堪えて、小榎さんに言った。
「……ううん。僕のほうこそ、友達になってくれてありがとう、小榎さん」
それが、僕の素直な気持ちだった。
「はい」
そして、彼女が返事をして数秒間の沈黙があったのち、互いに笑い声が漏れたのだった。
「ふふっ。こんなこと、改まっていうことじゃありませんよね」
全くもってその通りだと、僕も小榎さんの意見に同意した。
すると、そんな和やかな時間が流れている『オルレアン』の扉のベルが鳴る。
誰かお客さんが来たようだったけれど、僕たちが座っている席からは姿を見ることができない。
「は~い、いらっしゃい~」
そして、お客さんに気が付いた楓子さんが出迎えたようだったのだが……。
「あら! 可愛い子! こんな可愛い子がお店に来てくれるなんて、今日は大安だったかしら!?」
何やら楓子さんの興奮した声が聞こえてくる。
以前、楓子さんが言っていたけれど、『オルレアン』は商店街の一角にある個人経営のケーキ屋さんなので、お客さんの殆どは馴染みの人たちらしい。
なので、この反応から察するに、初めてのお客さんなのだろう。
それに『可愛い子』と言っているので、多分女の子なんだと思うけど……。
「ふ、ふえっ!? か、かわ……!?」
当然、相手の子は困惑しているようだった。
だが……あの声って……。
その声が聞こえてきた瞬間、思わず僕は立ち上がってお店の入り口まで向かってしまった。
「あっ、ごめんね。お姉さん、可愛い子を見ちゃうとついつい嬉しくなっちゃって! でも、お姉さんが変な人でもお店のケーキは逸品だから、期待してくれていいよ! さあ、どのケーキがいいかな? お姉さんのおススメはねー……」
僕が入口までたどり着く間にも、楓子さんお得意のマシンガントークが炸裂していた。
そして、僕が喫茶スペースから出てくると、気配で感じ取ったのか楓子さんと、その少女が同時にこちらを見た。
「お、お兄ちゃん!?」
そこには楓子さんと、もう1人。
僕たちと同じ、蓬茨野高校の制服を着た愛衣ちゃんの姿があった。
2021/5/24 記載
今回も拝読して頂き、誠にありがとうございます!
こちらの作品ですが、お陰様で20000PVを突破いたしました!!
いつも読んで頂いている皆さんの応援があってこその記録だと思います!!
本当に感謝感謝です!!
少し悲観的な言葉かもしれませんが、ランキングなどにも入っていない作品にも関わらず、こうして見つけてくださって読んで頂けるのは、非常に嬉しいです!!
ですが、いつかはランキングなどにも入る作品になれるように更新を頑張りたいと思いますので、今後とも応援していただけますと幸いです。