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甘えたがりのぐうたら彼女に、いっぱいご奉仕してみませんか?  作者: ひなた華月
第2部1章 春うららかな季節より
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幕間『雪女の雪見さんは燃えるような恋をしたい』第1章 抜粋


「……で、会ったその日に告白したけど、返事は何もなかったって訳か」

「ああ……」

「お前、馬鹿だろ?」


 放課後、俺の家にやって来た健太がスマホを触りながら俺にそう言ってきた。


 犬山いぬやま健太けんたは、俺が幼稚園の頃からの親友だ。

 家が隣で、親同士の仲が良いこともあり、同い年である健太とも自然と仲良くなったのだ。


 なので、昨日のお見合いの話も、真っ先に健太に話すと決めていた。


 だが、雪見ゆきみさんの正体が雪女といった部分は、流石に隠しながら話していたのだが……。


「あー、そのことなんだけどな……」


 しかし、健太は触っていたスマホを床に置いたかと思ったら、胡坐をかきながらも姿勢を正す。

 そして、特徴的な白が混ざったメッシュの前髪を触りながら、ぽつりと呟いた。


「オレ、実はそのお前の許嫁と同じで、半妖なんだわ」

「半妖……だと? お前が?」

「ああ。『狛犬』って分かるよな? 神社とかでよく像が置いているやつ」


 それは、日本人なら誰でも知っているものだろう。

 むろん、俺も知っている。

 つまり、あの像が健太のご先祖さまになるのか……。


「そうか。それで、雪見さんのことなんだが……」

「いやいやいやいや!! ちょっと待てよ!!」


 なんだ、そんな大声を出したらご近所さんの迷惑だろう。

 あっ、ご近所さんはお前だったな。

 ならば、あとでおじさんとおばさんに怒られれば済む話か。


「なんでリアクションがそんな普通なんだよ! もうちょっと驚くだろ!!『なんで今まで黙ってたんだ!』とか聞きたいことねえのかよ!?」

「何故だ?」

「何故って、お前……」

「俺は健太が半妖だろうがなんだろうが、親友であることに変わりはない。それとも、お前が半妖だったら、お前は俺の親友ではなくなるのか?」


 率直な疑問を俺が口にすると、目を見開いた健太はそのまま固まってしまったが、しばらくすると大きなため息を吐きながら俺にいった。


「……はぁ。お前はそういう奴だったよ。ずっと悩んでいたオレが馬鹿みてえじゃねえか」

「悩んでいたのか?」

「そりゃあ、ちょっとはな……。何も知らねえお前を騙してるみたいで、居心地は悪かった」


 健太の言う通り、俺は今まで何も知らずに過ごしていた。


 例えば、俺の父さんはサラリーマンで、母さんはパート勤めをしていると聞いていた。


 だが、実際の父さんの仕事は、大和陰陽師統括議会の議長補佐とかいう、堅苦しい名前の役職に就いていたし(ちなみに議長はお爺ちゃんらしい)、母さんは母さんで、その大和陰陽師うんたらかんたらの派遣部隊の陰陽師として活動していたらしい。


「しかし、気づかなかった俺も俺だ……。よく考えれば、父さんのクローゼットの中に烏帽子えぼしが入っているのを見つけても何も疑問に思わなかったし、母さんは買い物に出かけたと思ったら、1日帰って来なかったこともあったな……」

「ああ……オレんとこの親父とお袋がフォローしまくったからな。お前と同じで天然夫婦なんだと思うぜ」


 血は争えないもんだな、と感慨深げに健太が呟く。


「ま、おじさんたちのことはいいや。えっと、お前の婚約者のことだよな」

「まさか、お前は雪見さんのことまで知っていたのか?」


 驚いたものの、寧ろ同じ半妖の一族ということならコミュニティーがあっても可笑しくはないのか。


「ああ。澪華れいかのことも、1年に1回くらい顔合わせてたけど、あいつ、全然喋んねえからな……」

「澪華……だと!?」

「な、なんだよ。その反応は……」

「そうか……お前たちは、もうそんな仲なのか……」


 俺は、ショックのあまりその場で蹲ってしまう。


 しかし、ここで諦めるような俺ではない。

 それこそ、そんなことをすれば、昨日言った俺の言葉は嘘になってしまう。


「健太、許してくれ。たとえ、お前がライバルだとしても、俺はお前に負けたくない!」

「なんでそうなるんだよ!?」


 俺の宣戦布告にも、何故かツッコミを入れられてしまった。


「あのな……オレは別に澪華のことはなんとも思ってねえよ。只の知り合いってくらいだし、オレはもっとニコニコ笑ってる女の子のほうがタイプなんだ」

「そうなのか……。雪見さんのことを好きにならないなんて、変わっているな、お前」

「お前にだけは言われたくねえよ……」


 すると、疲れた様子を見せた健太が、またスマホを弄りだして、俺に告げた。


「ま、お前があいつのこと好きだっていうなら、適当に応援してやるよ」

「本当か! 助かる!」


 やはり、持つべき者は親友だ。


「では、早速雪見さんの連絡先を教えてくれ! 昨日、ネットで調べてみたが、まずは連絡先を交換するのが効果的みたいなんだ!」

「は? 知らねえよ、あいつの連絡先なんて」

「……俺の親友は使えないな。ガッカリだ」

「おまっ!? それが人に物を頼む態度かよ!?」


 またしても健太を怒らせてしまったようだが、健太は唇を尖らせながらも、これ以上何も文句を言ってこなかった。


 しかし、その代わりに衝撃的な言葉を発する。


「ま、学校通うようになったら直接自分で聞けばいいだろ?」

「学校……?」

「あれ、知らねえの?」


 すると、俺の反応で察したのか、健太が言葉を付け加えた。



「オレたちが通う蘆屋あしや高校に、あいつも一緒に入学するんだってさ」



 オリポス文庫 著:日輪牡丹

『雪女の雪見さんは燃えるような恋をしたい』 第1巻

 第1章 「4月の相談」より抜粋

 



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