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甘えたがりのぐうたら彼女に、いっぱいご奉仕してみませんか?  作者: ひなた華月
第4章 同居生活中間報告
19/89

幕間『ヴァンパイア・ブラッド・キラー』 第3巻 抜粋


 暗い森の中、処理した焚火のあとからパチパチと音が響く音を聞きながら、スヴェンは隣で眠る少女の顔を覗き込む。


 随分と長旅で疲れたのだろう。

 比較的、夜は起きていることが多いジャンヌも、こうして横になって眠ることが多くなってきた。


 この旅に、終着点は存在しない。

 だが、ジャンヌには目的があった。


 ――私は、世界が見たいです。


 なんとも漠然とした目的だった。

 だが、既にサザンクロス教会に追われる身となってしまったスヴェンには、他に目的もなく、結果、ジャンヌの旅に同行することになっていた。


 吸血鬼と共に、世界を回る。

 とても、過去の自分からは想像できないような行為だった。


◇ ◇ ◇


 スヴェンに残っている最初の記憶は、自分と同じような幼い子供たちが雨で濡れる地面に倒れている光景だった。


 それまでの記憶は、何1つ残っていない。


 はっきりとしているのは、自分はずっと1人で生きてきた、ということだ。


 行くあてなどないのに、地面に転がる肉塊を避け、吐きそうになる異臭を我慢しながら歩いていく。


「こんにちは」


 しかし、そんな異様な光景とは場違いな、白いドレス姿の女性がスヴェンの前に突如現れた。


 身体を打ち付けるような雨が降っているにも関わらず、その女性は自分が濡れてしまうことも、まるで気にしていない様子で幼いスヴェンに話しかける。


「生き残ったのは、あなただけよ。よく頑張ったわね」


 子供を褒めるように、頭を撫でる女性の手から、スヴェンは不気味な雰囲気を感じ取っていた。


 だが、その場から離れることに、スヴェンは躊躇いを覚える。


 何か、この女性から得体の知れない感覚が伝わってくる。


 その正体を、スヴェンは言葉にはできなかった。


「さぁ、私たちと一緒に戦いましょう。悪い敵をやっつけるために」


「……わるい、てき?」


 弱々しい声で、そう呟くスヴェンに向かって、白いドレスを着た女性は告げる。


「ええ、吸血鬼という、とても悪い生き物がこの世には沢山いるの。今、あなたが右手に持っている醜い生き物がそうよ?」


 そう言われて、スヴェンは自分の右手に視線を向けた。


 そこでようやく、スヴェンは気が付く。



 ――自分が、口から血を吐いたまま呻き続ける女の生首を持っていたことに。



 ああ、そうか。

 ぼくはこいつを殺せばいいのか。


 スヴェンは、ゴミを捨てるような感覚で、地面へと放り投げる。


「た、たす……」


 女の生首は、何か言葉を発しているようだったが、スヴェンにはそれが、犬や猫の鳴き声と同じようにしか聞こえなかった。



 スヴェンは、躊躇なく、その頭を踏みつける。



 水たまりが、血で真っ赤に染まっていく。



「『ソレイユ』の力も、上手く使いこなしているわね。よく出来ました」


 そして、目の前にいた女性は、幼いスヴェンと背丈を合わせるようにしゃがみこんで、そっと彼を抱きしめた。



「今日からあなたは、私の子供よ」



 ぎゅっと、抱きしめられる感覚に、そのときスヴェンは得体の知れない感覚が生まれてしまっていた。


 しかし、スヴェンにとっては、そんなことはどうでも良かった。


 生まれて来て初めて、誰かに必要とされた。


 そのことが、孤独なスヴェンにとっては生きていく理由となったのだった。


◇ ◇ ◇


「……スヴェン、さん?」


 声を掛けられて、我に返る。

 気が付けば、スヴェンは隣に眠っていたジャンヌの手を強く握りしめていた。


「……なにか、ありましたか?」


 心配そうな声色で、そう尋ねてくるジャンヌの手を放して、答える。


「……悪い。なんでもない」

「……そうですか」


 そう返答したジャンヌは、そのまま身体を起こして、スヴェンにもたれ掛かるようにしてきた。


「……何をしている?」

「なんだか、こうしたい気分だったので」


 ジャンヌは、スヴェンの肩に顔を置いて、そのまま瞼を落とした。


 スヴェンは、戸惑いながらも、自分も黙ったままじっと動かなかった。



 オリポス文庫 著:七色なないろ咲月さつき 

『ヴァンパイア・ブラッド・キラー』 3巻収録「スヴェンの過去」より抜粋


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