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甘えたがりのぐうたら彼女に、いっぱいご奉仕してみませんか?  作者: ひなた華月
第4章 同居生活中間報告
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第9話 クラスメイトたちの憂鬱

 10月中旬。


 つい最近まで続いていた残暑の厳しさはどこへ行ったのやら、段々と涼しくなってきた環境に合わせて、僕が通う蓬茨野高校の制服も夏服から冬服へ袖を通すことになった。

 そして、環境の変化といえば、僕と叶実さんの同居生活も2週間ほどの月日が経過していた。

 憧れの作家さんとの共同生活。

 不安はあったものの、それなりに楽しみにしていたのも事実だったのだが……。


「…………はぁ」


 学校に登校すると同時に、僕は自分の机に突っ伏して、ため息を吐いていた。


「おっはよ~、つくしっち! なになに、今日も元気なさげ?」


 すると、僕の隣の席の女の子が陽気な声で話しかけてきた。

 頭の両端にお団子が2つある髪型に、にっこりと屈託のない笑顔で八重歯がちらっと見えるのがチャームポイントの女子生徒だ。


「……おはよ、箱庭さん。箱庭さんは、今日も元気だね」

「そりゃあ、今日の1限目は体育だもん! あたしの華麗なるリベロをみんなに見せるときが来たんだよ!」


 そういえば、今日は朝から体育だったっけ、と僕がますますため息を吐きそうになったのだが、箱庭さんはそんな僕に全く気が付いておらず、気合を入れながら大きくガッツポーズを取っていた。


 彼女の名前は箱庭はこにわきずなさん。

 この1年C組のクラス委員長だ。


 箱庭さんは僕のようなクラスで目立たない存在とは違い、持ち前の明るい性格とリーダーシップを入学初日から発揮し、すぐにクラスの中心人物となっていた。

 そんな箱庭さんと席が隣になったのは、2学期が始まってすぐのことだった。

 それから席替えもなく、ずっと同じ隣の席なのだが、彼女は学校に着いた僕に必ず声を掛けてくれる。

 僕は、あまり話すのが得意ではない人間だけど、箱庭さん相手だと自然とリラックスした状態で話すことができる。

 しかし、それは僕に限った話ではなく、箱庭さんはどんな人に対しても着飾ることなく積極的に自分から話しかけているのだ。

 だからこそ、クラス委員長としての信頼も確かなものになっているし、男女区別なく彼女に対して好印象を持っている生徒は多かったりする。

 もちろん、僕もそんな生徒たちの1人だ。


「で、話は戻すんだけど、最近つくしって、よくため息ついてるよね? 何か悩み事でもある?」


 箱庭さんは、ごく自然な流れで、僕にそう言ってきた。

 声のトーンは普段とあまり変わりはないのだけど、じっと見つめてくる丸い瞳からは、どこか僕のことを心配してくれているような印象を受けた。

 こういう何気ない気遣いをしてくれるところも、箱庭さんのいいところなんだな、と思いつつ、僕は首を横に振った。


「ううん。本当に大したことじゃないんだ。心配させちゃってごめんね、箱庭さん」

「そっか~。まぁつくしっちがそう言うんならいいけど、何か困ったことがあったら、この箱庭きづなさんにちゃんと言うんだぞ」


 にかっ、と八重歯をのぞかせるその笑顔は、僕の溜まってしまった疲労を回復させるのに十分なものであった。

 一瞬、今の僕の状況を箱庭さんに聞いてもらったらどれだけ楽になるかと思ってしまったのだが、確実に違うところに食いつかれるような気がして、グッと堪えることにした。

 なんたって、今の僕は大人の女性と一つ屋根の下で暮らしているのだ。

 いくら箱庭さんでも、年頃の女の子なんだから、そんな状況の僕について色々と詮索するかもしれない。

 それで「瀬和津久志が女性と一緒に暮らしてる!?」とクラス中で話題になってしまうことは、僕の今後の学生生活のことを考えると出来れば避けたい事態だ。

 それに、僕の悩みは、おそらく箱庭さんに話したところで、残念ながら解決しない問題でもある。

 これは、僕自身がちゃんと自分で解決しなくてはいけない問題なのだから。


「あっ、こっちゃん、おはよ~!」


 そして、箱庭さんは既に僕から意識を逸らしてしまって、教室に入ってきた別の生徒に声を掛けていた。

 しかし、声を掛けられた女子生徒は、ちらっとこちらを見て少し頭を下げただけで、すぐに自分の席である、窓際の一番後ろの机に鞄を下ろして座ってしまった。

 それでも、箱庭さんは彼女の反応に満足したらしく、にっこりとした笑顔が崩れることはなかった。


 僕も、ちらりと席に座った彼女の横顔を見る。

 しかし、偶然にも彼女と目線があってしまう。

 その目には、とても冷血な、人を寄せ付けないような力が籠っているようだった。

 僕は慌てて視線をそらしてしまったが、逆にやましいことをしてしまったような居た堪れない気持ちになってしまう。

 なので、もう一度彼女のほうに視線を向けたが、すでに彼女は窓の方へと視線を向けてしまっていた。


「う~ん、こっちゃんってば今日もクールだね! まさに『琴葉姫』って感じ!」


 そして、僕と同じく彼女のことをみながら、箱庭さんはうっとりとした目を向けながらそう呟いた。


 もちろん、彼女も僕たちのクラスメイトであり、名前を小榎こえの琴葉ことはという。


 しかし、僕は彼女が誰かと一緒にいるところを見たことがない。

 今日みたいに必要最低限のやり取りをするだけで、殆どは今のように窓を眺めていることが多い。

 そして、そんな彼女についたあだ名が『琴葉姫』という、これまたベタな敬称が付けられたのだが、『姫』という単語が似合うくらい、彼女の長い黒髪と端麗な姿は異彩を放っていた。

 多分、十二単とか着たら、ものすごく似合うタイプだと思う。

 そのため、クラス内では箱庭さんとは違った形の有名人であり、特に男子生徒からの人気はかなりのものである。


「ん? どったの、つくしっち? あっ、もしかして、つくしっちって『琴葉姫』みたいなタイプの女の子が好みだったり?」

「ち、違うよ! 僕はただ、その……」

「あはは~、やっぱりつくしっちは面白いなぁ~。そんな反応してるところがますます怪しい」

「だから、そういうんじゃないんだって!」


 結局、このあとはHRが始まるまで箱庭さんからの追及が止まることはなかった。


 やっぱり、年頃の女の子って、こういう色恋沙汰が好きなんだなと思いつつ、改めて僕が女性と一緒に暮らしているのは黙っておこうと、心の中で密かに決意した瞬間でもあった。

 


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