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甘えたがりのぐうたら彼女に、いっぱいご奉仕してみませんか?  作者: ひなた華月
第3章 不束者ですが、よろしくお願いします
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第7話 同居生活スタート!

 1週間後の休日。

 今日から僕と叶実かなみさんの同居生活が始まる。


 僕は簡単な荷物をまとめて、再び叶実さんの家へと向かう。

 ただ、今回は以前とは違い、叶実さんはちゃんと起きて僕を玄関で出迎えてくれた。


「いらっしゃい~! 待ってたよ、津久志つくしくん!」


 満面の笑みでそう言ってくれた叶実さんは、今日もピンクのパジャマ姿に寝癖がばっちりとついてしまっていた。

 それでも、愛らしい様子はやっぱり変わっていなくて、姉さんから言われた叶実さんの容姿についての文言を思い出してしまい、思わず目を逸らしてしまう。


「あれ? 霧子きりこちゃんは一緒じゃないの?」


 そして、叶実さんも偶然姉さんのことを考えていたのか、キョロキョロと周りを見回すようにした。


「姉さんは後で来ますよ。今、管理人さんに頼んで車を止めている途中ですから」


 今日は僕が引っ越すための荷物を運ぶために、姉さんが車をレンタルしてくれたのだ。


「あっ、そっか~。じゃあ、津久志くん、先に入って入って!」


 そういうと、叶実さんは僕を促すようにしてリビングへと続く廊下を歩きだした。

 僕も「お邪魔します」と靴を揃えたのちに、足を踏み入れる。

 以前は物でごちゃごちゃになっていたこの廊下も、今では随分と歩きやすい。


 しかし、残念なことに靴下や肌着といったものが所々散らかっているのが目に入ってしまう。

 1週間前に「服はちゃんと洗濯カゴに入れるように心がけてくださいね」とは言ったけれど、どうやら叶実さんはあまり実行には移していないようだった。

 しかし、言われたからといって、すぐに実行できる人間だって多いわけじゃない。

 これから僕も一緒に住むわけだし、ゆっくりと改善していってくれれば何も問題は……。


「ささ、どうぞどうぞ!」


 笑顔でリビングの扉を開けたと同時に、僕は自分の目を疑ってしまった。


「な、な、なっ……!」

「津久志くん?」


 ぽかん、と首を傾げる叶実さんに、僕はついつい大声で叫んでしまった!


「なんですか、コレ!!」


 僕が目にしたのは、僕が初めてお邪魔したときに見た、1週間前と殆ど変わらない散らかり放題の部屋だった。


「なにって……ああ、そっか!」


 すると、さすがに僕のリアクションで気付いたのか、叶実さんは頭の後ろを手で押さえながら、僕に告げた。


「えへへ、ちょっと散らかしちゃった……かな?」

「ちょっとどころじゃないですよ!! どうやったら1週間でこんな状態になるんですか!!」


 見れば、またソファ近くを中心に、ゴミの山が散乱している。

 ほとんどがお菓子の袋やインスタントラーメンのカップ、それにペットボトルといったもので、上からみたらミステリーサークルにでもなってるんじゃないかと疑いたくなるような酷い状態であった。

 この様子だと、あれだけ警告したのに食生活も殆ど改善されていないと見える。


「し、仕方なかったのっ! わたしもね、津久志くんに言われたから頑張ろうって思ったんだよ? だから、洋服とかも出して買い物に行こうと思ったんだけど、動画とか見てたらいつの間にかすっかり遅くなっちゃって、また明日から頑張ろうかなって……」


 早口でまくし立てる叶実さんだったが、最後は小さな声で俯きながら「ごめんなさい……」と呟いた。

 その姿を見て、なんだか僕の中に罪悪感が芽生えてきてしまう。


 叶実さんの言い訳を肯定するわけじゃないが、確かに彼女の言う通り、おそらく外に出かけるために用意したであろう洋服や上着がソファの上にいくつか置かれてあって、買い物に行こうとした形跡は残っていた。

 もしかしたら、叶実さんなりに、ちゃんと僕のいうことを守ろうとしてくれたのかもしれない。


 それに、ここで叶実さんを怒ったからといって、改善されるどころか、僕たちの関係が悪化してしまう可能性もある。

 成り行きとはいえ、叶実さんは僕がこれからお世話になる、この家の主だ。

 あまり責めることは言わないでおこう。


「……わかりました。でも、せめて食べた後のゴミはちゃんとゴミ箱に捨ててくださいね。僕も手伝いますから」

「わっ! ありがとう津久志くん! やっぱり津久志くんって優しいね~!」


 そんなことを言いながら、なんと叶実さんは抱き着くように、腕を僕の腰に回した。


「ちょ、ちょっと叶実さん!?」


 いきなりのことで動揺する僕とは違って、叶実さんは実に幸せそうな笑顔を浮かべながら僕の身体にしがみついてくる。


「あ~、本当に津久志くんが来てくれて良かった~!」

「わ、わかりましたからっ! ひとまず離れてくださいっ!」


 その後、なんとかしがみつく叶実さんを引き剥がすことには成功したけど、正直、僕の心臓はまだドクドクと早鐘を打っていた。

 まさか、姉さんみたいに僕を困らせるようにやっているわけじゃないんだろうけれど、急に身体に触れられてしまうと、こっちもその……色々と意識してしまうのだ。

 しかし、何度も言うが、僕はこれから叶実さんと1つ屋根の下で一緒に暮らすのだ。

 最初は『先生』と一緒ということにドキドキしていたが、今は全く別の意味でドキドキされっぱなしだ。


「じゃ、まずはリビングから掃除して……叶実さん。他の部屋とかは後で掃除させてもらっていいですか?」


 僕がこの前お邪魔して把握している限りでは、この家はリビングの他に部屋が3つ存在している。


 2つは、リビングに続くまでの廊下にあり、1つは既に僕が使うことになっている部屋で、実際に僕もこの目で室内は確認済みだ。

 そして、もう1つの部屋はどうやら資料室ということになっているらしいが、僕はその中が怖くてまだ見てはいない。

 まぁ、いずれ僕も叶実さんと一緒に片付けをすることになる日が来るかもしれないのだが、その日が来るまでは、そっとしておこう。


 ということで、残るはこのリビングの中にある部屋なのだが、配置から考えて和室のような気がする。

 おそらく部屋自体はリビングと同じような惨状になっている可能性が高い。

 ならば、リビングの掃除と一緒に後で掃除をしようと思ったのだが、


「あっ、そうだ、津久志くん。この部屋は入っちゃダメだよ」


 叶実さんは、まるで僕の通行を遮るかのように目の前に立つのだった。


「えっ、でも……」


 そんなおとぎ話のような忠告をされるとは思っていなかったのでポカンとしていると、叶実さんはいつも通りに呆気らかんとした表情で告げる。


「いいからいいから。気にしないで」

「……はぁ」


 そこまで家主に言われてしまっては、僕も無理に入ろうとは思わないし、作家さんなので何か重要な書類などを保管しているのかもしれない。

 ということで、言われた通り、僕はソファ周りのゴミだけ片付けを終えたところで、姉さんも部屋へとやって来た。


「おー、結構片付いてんじゃん。これも我が弟の実力ってやつかねぇ」


 リビングを見て、開口一番に姉さんは僕たちにそう告げた。

 えっ、これで片付いてるの? と首を傾げたくなりそうだったが、考えて見れば、姉さんは最初の叶実さんの家の状況を知ってるわけだから、今はまだマシなほうだと判断したらしい。


「そうだよっ! 津久志くんは凄いんだからっ! あと、わたしもちゃんと頑張りましたっ!」


 そして、なぜか腕を組みながら仁王立ちで姉さんを迎える叶実さん。

 あと、ちゃっかり自分の功績にしてしまっていることは、言わぬが花だと思う。

 まぁ、実際叶実さんも片付けを手伝ってくれたのは事実だしね。


「はいはい。んじゃ、津久志。お前の荷物運ぶから、ちょっと手伝ってくれ」


 しかし、叶実さんの話を軽く聞き流しただけだった。


「ちょっと霧子ちゃん! もうちょっとわたしを褒めてよ! ねえ、霧子ちゃん!」

「あ~、うるせえ! 子供かお前は!!」


 2人のそんなやりとりをしている姿は、なんだか微笑ましい姉妹のように見えてきた。

 それに、なんとなく2人が仲の良い様子も見れたことに、僕はホッとする。

 叶実さんのこともそうだけど、昔から僕は姉さんが誰か特定の人と仲良くしている姿と言うのを、これまで見たことがなかった。

 でも、姉さんにもこうやって、誰かと楽しそうにしている姿を見ると、ちょっとだけ心の中が温かくなるのだった。


「ほら、行くぞ津久志」

「あっ、うん……」


 そして、一通り叶実さんとスキンシップを取った後、僕を連れて部屋から退去する。

 そのときになったら、叶実さんも「いってらっしゃい~」とにこやかな様子で、僕たちを送り出してくれたのだった。

 その後、エレベーターの前まで来たところで、ため息と共に姉さんが僕に言った。


「津久志。お前もあいつのこと必要以上に甘やかさなくていいからな?」

「うん。それは……善処します」


 甘やかす、というのがどれくらいのことを指すのか判断はしにくいけど、少なくとも自分で食べたお菓子の包装くらいは、ちゃんと片づけてもらおう。

 僕はこっそりと心の中でそう決意して、姉さんの言葉に返事をしようとしたところで、グイッと姉さんが僕の顔を覗き込むようにして、近づいてきた。


「あと、ぜっっっったい原稿書かせろよ……。ぜっっっっっったいだからな……」


 今までにないくらい、姉さんは僕を睨みつけてくる。

 僕はその瞬間、蛇に睨まれるネズミの気持ちが痛いほど分かってしまった。


「は、はい……分かりました」

「よし、約束だからな」


 超至近距離のまま、姉さんの催促に対してもコクコクと頷く僕。

 すると、タイミングがいいのか悪いのか、ちょうどエレベーターがやってきて僕たちの仲裁に入ってくれた。


「んじゃ、頼んだぜ。あいつのこと」


 それだけ言うと、姉さんは僕から離れてエレベーターの中に入っていった。

 きっと、姉さんにとっては何気ない一言だったと思う。

 だけど、僕にとっては、初めて誰かから何かを任せてもらえたような、そんな気持ちになって、自然と笑みがこぼれていた。


「うん、任せてね、姉さん」


「ん? なんか言ったか?」


 姉さんは、首を傾げながら振り返る。

 そんな姉さんに、僕は「なんでもないよ」と答えて、エレベーターに乗り込んだ。

 そして、ふと先ほど叶実さんとした会話を思い出して、姉さんに質問をぶつけてみた。


「姉さん。さっき叶実さんから入っちゃいけない部屋があるって言われたんだ。あのリビングと一緒にある部屋なんだけど……」

「……あー」


 姉さんなら何か知っているかと思って質問してみると、予想通り姉さんは思い当たることがあるのか、エレベーターの階数表記ボタンを見ながら呟いた。


「誰にも見られたくねーもんってあるだろ? あいつにとってはそれがあの部屋ってだけだよ。お前だって、隠してるエロ本とか他人に見られたくねえだろ?」

「そ、そんなの隠してないけど!?」

「とにかく、だ。あいつが『入るな』って言うんだったら、それを守ってやれ、いいな」

「う……うん。わかった」


 なんとなく、姉さんの雰囲気から、あまり詮索するのは憚られる内容かもしれない、と思ってこれ以上は追及しないことにした。

 まさか、本当に昔話のように鶴が機織をしているなんてこともないだろうし、姉さんの言うように、ただ単に他人には見られたくないものを置いてあるだけなのだろう。

 あの叶実さんが他人には見られたくないものとは、一体どんなものなのだろうと少なからず興味は湧いてしまうのだが、すぐに頭の中の煩悩を消去するように努めた。


 プライバシーを守っていくのも、今後の共同生活には重要なことだ。


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