心、ドア、心理
心、ドア、心理
「さぁ!ようこそ!ようこそ!」
アニメみたいなちょび髭を生やし、派手なスカーフを巻いた小人がドアを開け、仰々しくお辞儀をする。
最新のVRを駆使した心理テスト。
ふわりと頬を撫でるのが扇風機から出たものだと知ってていても、脳の認識は別だ。
「ご利用ははじめてですか?」
「はい」
音声識別方式のお陰で煩わしいコントローラーの作業も必要ない。
「どの心を覗きますか?
人間関係、恋愛、仕事、自己分析、その他」
その他に何があるのか興味を引かれたが無難に自己分析を選択する。
「おぉう」
一瞬にして周囲が真っ白い壁に覆われていく様は胸に来るものがある。
「あなたはなにもないここに引っ越してきました。さて、何から始めますか?」
いつの間にか隣に来ていたちょび髭が私を見上げ問う。
選択肢が提示されるのを待ったがなにもないのでしばらく考える。
「ライフラインの設備をととのえる?」
「ふむふむ。いいですよー。」
''水道と電気とガスの設備が整いました。''
と表示される。
「次はどうしましょうか?」
問われるままに作り上げた部屋にはベッドと空の本棚が壁に一面、その間に畳まれた簡易ベッドと小さな冷蔵庫がひとつ、炬燵の上にノートパソコン。あとひとつ、本当は足りないのだけど。
「……十分です。」
答えると「結果を聞きますか?」
「はい」
「診断結果は……」
お疲れ様でしたー!!甲高いキャンペーンガールの声が耳に突き刺さる。
VRのヘッドギアを外して頭を下げる。
「いかがでしたか?こちらのアンケート用紙に……」
対応しながらぼーっとした頭を振ってはっきりさせる。
あれほどリアルなら……
つまれたソフトの山を一つ一つ見る。あの部屋に足りなかった、今は亡きペットの姿を探す。
AR(拡張現実)モード搭載、ペット飼育ゲーム。
失われたあの日々がこれで永遠に戻ってくる。
ソフトを抱えて店のドアを押し開ける。