朝、狼、眠
しとしとしと。
降り続ける雨を洞窟奥から見つめる金色の瞳が2つ。
遠くの方でゴロゴロと雷がなる。
くわぁ、と音をたてて瞳の代わりに人を軽く飲み込めそうな大きさの口が開く。赤く濡れた舌とするどい歯が現れる。
岩肌を伝う雨水をペロリとなめて再び目を閉じる。
私はただ息を殺してそれを見ている。
「コケコッコー!!!コケコッコー!!!コケコッコー!!!」
スマホのアラームがけたたましく鳴る。
冷や汗がパジャマを湿らせて気持ち悪い。
もう一度目を閉じる気にはなれなくて洗面台にたつ。
冴えない顔の私が見つめ返す鏡から目をそらしてテレビをつける。
「眠り病患者が日本の総数2000を越え……」
ニュースキャスターが読み上げ、点滴とモザイク処理された人が映される。
ある日突然に目覚めなくなるという眠り病。患者の体をどれ程調べても原因となるものが見つかっていない、これを病と呼べるのかは疑問だが、まぁ連日このニュースが報道されている。
さて、今日も元気に満員電車に揺られて、社畜は出荷されますかね。
カタツムリが岩肌を這い、奥では地響きのような音を響かせて狼が眠っている。
雨は霧に変わり、雷鳴は遥か遠く、代わりにふくろうの声がこだまする。
山を降りるなら明日の朝一番がいいだろう。
体力を残すために目を閉じる。
「コケコッコー!!!コケコッコー!!!コケコッコー!!!」
焼きすぎたトーストとコーヒーを流し込む。
社畜は今日も揺られて行く。
目を開くと洞窟の外は真っ白で決心を鈍らせる。いつの間にか隣に来ていた狼が金色の瞳を私に向ける。逃げるんだ!!脳の命令は足に届かない。
狼がすっと頭を垂れる。
恐る恐るのばした手に頭を押し付けてくる。犬みたいだ……恐ろしさはすっかり失せ望むままに首もとを掻いてやる。
満足したのか、すっと顔をあげると乗れというように背中を向けてくる。
思っていたより固い毛の感触に驚きながらしっかりと首に手を回す。
あちこちにできた虹の粒を散らして山をかけおり、小さな集落にたどり着いた。
狼は私を下ろすと白く輝く体を翻し、山をかけ上って行く。
「コケコッコー!!!コケコッコー!!!コケコッコー!!!」
どこか遠くで鶏が鳴いている。
回りを見回していると老人が歩いてきて言った。
「ようこそ我らの仲間」