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ピアノ、まどろみ、笑2
鍵盤をでたらめに押す小さな指の、その隣で小さな拍手。
「じょーず、じょーーーず」
嬉しそうに笑う女性の視線の先には幼子。
ちゃちな子供用のおもちゃのピアノの鍵盤を押しては女性を振り替える。
目線が合うとプイッと鍵盤に視線を戻しまた一音。
女性がおもちゃの設定をいじり、幼子の好きなアニメのメロディーが弾けるようにしてやる。
何度も二人で聞いたはずのその曲が1音鳴る毎に顔を見合わせる。
春の陽気の中、開けた窓から暖かな光が差し込む。
幼子が何度目かに視線をあげた時、女性が目を瞑って寝息をたてていた。
音を鳴らしてもう一度女性を見る。
女性の口の端が幸せそうに持ち上がるだけで拍手は起きない。
幼子はおもちゃのピアノを横にずらして、その女性のお腹の辺りに無遠慮に乗っかった。
一瞬顔をしかめた女性が幼子に腕を伸ばし抱き寄せる。
幼子はペチペチと女性の頬を暫く撫でていたが、やがてみずからもうとりうとりと目を瞑る。
微睡む二人が見る夢はきっと同じものだろうねと、窓を通り抜ける風が見守っている。




