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白、鳥、黙
「白色を表現したいんだ」
絵の具で色を混ぜながら君が言った。
パレットのはしっこで出会った2色が手を伸ばし合う。
その手が、やがて細く線になり区別がつかなくなる。
「じゃぁ。塗らなきゃいいでしょう?」
君が手にする何も描かれていない画用紙を見る。
誰がどうみても白色だと答えるでしょうに。
「それじゃあ、何もなかったのと同じだ」
そういって君は絵筆を空で走らせた。
ペタりと作り出した色を塗る。
まだ、白い画用紙に色が落ちただけ。
私はそう自分を慰めた。
鳥の形に絵筆が動く。
ああこれで、ほとんどの人が鳥の絵だといってしまう。
何人が「白い背景を飛ぶ鳥」だと評価してくれるのか。
君の筆は止まらない。
蒼白い月が鳥を照す。
背景を漆黒で塗り固めたところで、
この月が白色に戻るわけはない。
色付いていくのが悲しくて押し黙ったままの私。
それに気づいた君が画用紙から顔をあげた。
「白色にどんな想いを重ねたの?」
画家の僕よりよっぽど芸術家らしいねと、呟いた唇が重なる。




