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静寂・蛍・愛2
空はすっかり茜色。そろそろ帰らなくてはならない。のに、
君と話すのが楽しくて寄り道を提案した。
「いいよ」
口数が多い方ではない君の笑顔が嬉しくて、いっそう増える私の口数。
ふわり、となにかが目の前をよぎった。
「うわぁ」派手に驚いてよろけた私を君が支える。
「大丈夫?」
キスできてしまいそうな距離に、さっきまで尽きなかった話題がどこかへ消し飛んだ。
「……生きてる?」
不意に訪れた静寂に君が不安そうに問いかけてくる。
「生きてる」
我にかえった私が慌てて身を離した。
話題を探して周囲を見回す。
「蛍め」
自分を驚かせた正体を軽くとがめる。
目を凝らすとあちこちで光る蛍。
「私にそっくり」
ひときわ忙しなく光る蛍を指差して君を見た。
「本当だ」
「もっとおしとやかに生きろー」
蛍に声をかける私の背中で声がした。
「この蛍が1番可愛らしい思うけどね」
「疲れさせちゃうだけ」
「賑やかなのが好きだよ」
饒舌な君はずるい。




