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短編集  作者: まさるしー
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チーズ、牛乳、カメラ

「写真コンテスト作品募集中※プロアマ問わず!」

手の中のチラシを見て、ため息をつく。

ドロドロで思わず顔を顰めてしまうような……そう例えば腐った牛乳みたいな?そんな感情が僕の中一杯に満ちている。

奇抜だと言われるような写真が撮りたかった。先輩の心に強烈に残る1枚にしたかった。必死に何日も考え抜いた構図だった。自信がないと予防線を張りながら敬愛する先輩に見せた。

「あぁ、よく撮れてる。ベーシックな構図だね」先輩は僕の頭を撫でて卒業していった。

認めてもらえたら、告白するつもりだった。

構図の話をされただけなのに、僕の先輩への思いさえも平凡だと切り捨てられたみたいで結局思いを打ち明けることはできなかった。


「落ち込んどるん??」

およそこんな複雑な感情など、抱えたことの無さそうな友人が話しかけてきた。

「牛乳の腐ったような気持ちだよ」

分かるわけがないから素直に打ち明ける。

「牛乳の腐った?ヨーグルト?」

案の定アホな返しが返ってくる。というか、そんな訳し方されたらさっきまでの僕のしんみりした描写が崩れるだろ。この罪は重い。

「……発酵と腐敗の違いをご存じでない?」

やれやれというジェスチャーをつけて返す。

「違いなんかあるん?」

ポカンとした顔で打ち返してくるな。僕だって知らない。

「お手元の四角い物はなんですかね?」

「スマホだけど?」

「どんな文明も使い手によってはゴミになる例ですね?」

「あぁ!!!」

賢いね!と目を輝かせて検索エンジンに

「発行 腐敗 違い」と打ち込む。そのまま検索する。控えめに言ってバカだ。何で僕はこんな奴と友達やってるんだろう。

「人の価値観だって!!」

コンピューター様のサポートで、目的のページに一発でたどり着いたらしい友人が目を輝かせる。

「ふぅん」

何てことだ。じゃあ僕はヨーグルトみたいな気持ちを抱えていたと言おうと思えば言えるのか。なんとも格好がつかない。

「おい!」スマホの画面から目をそらさずに友人が僕を呼ぶ。

「なんだよ」言いながら近づいて一緒にスマホを除き混む。


「ハイッ!!チーズ!!」

パシャリとスマホ画面に僕らの顔が収まる。

「お前、えらくつかい古された言葉使うのな」

急にとられた驚きよりそちらに興味を持つ、まさかヨーグルト繋がりで持ってきたか?


「ベーシックな言葉だけど、みんなに伝わる表現だから俺は好きだぞ?食いもんがまさか笑顔の合図だなんて思わんやん?」

おいまさか。

「何でそれで落ち込んでると知ってるんだ」

「え?どれだけ一緒にいると思ってんの?」

「……お前だけ笑顔じゃなくてタコの口してる」

スマホの画面に写る写真に話を戻す。

「うわっ!全力でチーズ言いすぎた!もっかい撮るか!」

「やだよ」

笑って僕は逃げる。手の中のチラシに応募する写真はどんなものにしようかと考えながら。



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