天候、神、川
外は雨。
僕はこねくり、引きちぎり、押し潰し、ひきのばして、まるめる。
青い樹脂粘土を温める片手で机の引き出しをあける。
山河周辺で異形の者共が思い思いに暮らす世界が現れる。
三角錘をベースに青いワンピースを型どる。
そこから這える羽を少し黄色を混ぜた粘土でつくる。
乗せる頭はどんな表情にしようか?
川で釣りをしているオッドアイの住人を迎えに来た子。
この子はオッドアイの住人の姉。
ほっておけば日がな釣りしかしない弟を心配しつつも
その釣りの腕を買っている。
あぁそうだ、この子の横に釣果も作りたいんだった。
ゴマ粒のような瞳にダイヤ形の白を乗せる。
姉をオッドアイにしないことで両親が異種族の婚姻であることを暗喩する。
バケツを雑に作り、魚を何匹か。UVレジンを少々たらしたら、窓辺に置いて硬化を待つ。
「ふははは!!俺は神だ!!」
この小さな世界では何もかもが思い通りに進む。
ステンドグラスを模して作られた家の壁。
そのドアを開けてエプロンをつけた二足歩行の猫が両手を広げている。
駆け寄るのはどんな子にするか……。
「ふははは!!」
悪の怪人がその穏やかな世界を壊そうとする
「まてぃ!!そんなことはこの僕が許さない!」かっこよく止めるのは
「この世界の神!見参!!」
もちろん僕。
「来たな!神よ!この大地は穏やかすぎる!川の反乱を起こして事件でも起こさねばストーリーは行き詰まるぞ!」
説明口調の怪人が戦闘態勢をとる。
「うーん……」
いまいちポーズが決まらない。
自分でポーズをとって観るがどれもしっくり来ない。
「なにやってんの、兄貴」
神をも恐れぬ妹がドアに寄りかかってアイスを食べている。あぁ、このポーズから一歩踏み出す瞬間を作ろう。
問題はどこにもたせかけるか……、ふと妹の手にあるものに気づく。
「供え物か、苦しゅうない」
差し出した手に渡されるレモンアイス。
カシュッとかじって酸味と甘味を楽しむ。
「で、今日はどんなの作ったのよ?」
引き出しを覗きこみながら妹が言う。
窓の外ではいつのまにか止んだ雨のかわりに星が輝いている。
「迷える子羊よ!氷菓の礼じゃ、今夜とくと聞かせてやろう」
思い付いた怪人のポーズを作ってしまいたい僕はそう約束し妹を追い払おうとする。
「いーけどそろそろハンバーグ焼き上がるよ?」
「えっ!?苦しゅうない!!」
妹の後を追いかけるようにしてリビングに向かう。
あとに残された怪人は手も足も出ずに転がされている。