ダンス、シャンデリア、赤いドレス
落ちてきたら5人ぐらいは一気にやれそうなシャンデリアの下で君とダンスを踊る。ミステリ好きの僕としてはちょっとどころじゃなく怖い。読む話読む話大体シャンデリア落ちてくるんだもの。このダンスが無事終わったら僕は君に告白するんだ。
専用の靴に履き替えて紐をきつく結ぶ。
目をつぶり呼吸を整える。
音楽が流れる3、2、1
舞台袖から跳躍する背中をそらし首は上。
着地し、ゆったりとした動作で体を整える。
赤いドレスが跳躍して僕の腕に身を任せる。
オーディエンスに見せつけるように君とじっくり見つめ合う。
音楽の調子が変わる名残惜しいと引き留める手を残しながらしかしお互いに離れる。
幕
割れんばかりの拍手がとどろく。
呼吸を整えていると君がやって来て
「お疲れ様でした」と声をかけてくる。
「あぁ、そのドレス似合ってる。」
舞台用のハッキリとしたメイクも手伝って今にも光を放ちそうだ。
君は頬を染めフィッと楽屋に消える。
あとを追いかけ僕も楽屋で着替える。
会場の外で君を待つ間に開いた小説でもやっぱりシャンデリアが落ちてきた。怖い。僕は九死に一生を得たに違いない。
「お待たせしました」化粧をおとした君はまだあどけなさが残る少女という出で立ち。
「なぁ、僕ら何度も死線くぐってるやん?」
「死線ですか?」
「ほらミステリとかでよく」
「あぁ!シャンデリアが落ちる話ですね?」
「そうそう!!……で」
「お付き合いならしませんよ?」
「なんで!?シャンデリア落ちなかったのよ?命助かったのよ?これ、映画とかだとキスの1つもあるでしょ!?」
「現実世界でシャンデリアは落ちないものなので」
ダンスの時だけはかっこいいのに。
続く言葉を彼は知らないまま。




