貧困、ドラゴン、少女
今日も私の鱗を奪いに冒険者がやってくる。
私の寝てる隙に鱗を剥がそうとする。
「ドラゴンの鱗!それさえあれば!孫の代まで遊んで暮らせる!」
血走った目で剣をふりあげる。もう何人目だろうか。私は私のものを奪わせはしない。
でも、あぁ、この生活ももう疲れた。
ふと足下の村を見る。
なにも育たぬ土地で、今日も少女は土を耕し、冬には服を繕う。
春に肩を落とすのを何度見ただろう。
せめてこの鱗が少女の腹を満たすだろうか?
彼女の笑顔が今年の春こそ見られるだろうか。
鱗を渡してしばらくたったある日、息を弾ませ少女がやって来た。
1枚では足りなかったのだろうか。
彼女に向けられる剣を想像するだけで痛かった。かといっていつものように始末するのも辛い。見つからぬように隠れる。
辺りをしばらく見回したのち、少女は声高に叫んだ。
「いるかわかんないけど!!ありがとう!!
くれた鱗があんまりきれいで欠片を少しネックレスにしたの。種の仕入れの時、店の奥さんが買いたいといってくれて!今お店を開こうかと計画してるところ!」
そうして、追加の鱗をねだることもなく少女は帰ろうとする。
「もう1枚ほしくはないか?」
思わず声をかけた。
少女にはうなり声としか届かないと知りつつも。
振り返った少女はしばらく固まり、そして
「痛かったよね、ごめんね」
かつて鱗を剥がした箇所を指差し謝った。
もう1枚あげようとその隣を剥がそうとしていると
「なくても、大丈夫」少女はそれを制止して、「今はなにも返せないけど、きっといつか……」それだけ言って降りていった。
しばらくして、ドラゴンのエンブレムの装飾店ができた。
生きている姿を是非みたいとたくさんの人がドラゴンの元を訪れた。
剣をふりあげる人はもういない。




