本、さくら、金米糖
なにかが落ちる音に続いてバサバサバサと降り積もる音がする。
「またか」
ため息をついて2階へ上がる。
「今度は何をしようとしたの?」
ドアを明けながら問いかけると目の前に
尻餅をついた兄がいた。
サンドイッチをくわえ、スマホを右手、左手に本、頭にはたきをハチマキで取りつけ、お腹には腹筋が鍛えられると噂のベルトをつけている。
足元には散らばった本。
器用に口だけでサンドイッチを食べてから兄は言う。
「食べて、聞いて、読んで、掃除して、運動するこれぞ高コスパの休日!!」
「バカじゃないかしら」
相手にするのを諦めて立ち去ろうとするのを呼び止められる。
「おい、さくら!考えても見ろ!
それぞれの行動に30分かかるとするだろ?凡人はそれだけで2時間30分も消費してしまうんだぞ!!一方兄ちゃんは30分で済む!!すごい発明じゃないか?」
「わぁ!!すっごぉおおい!」
真顔で返してやると
「 だろ?だろ?俺って天才だよな!」
と調子にのる。
「バカじゃないの?」
笑顔で本心を告げるも兄は
「馬鹿に見えるか、妹よ。
いやそれは仕方ないことだ。そう!!
天才!とバカは紙一重で君はまだ若い。
見分けられないのも無理はないぞ、落ち込むことはない」
とスラスラと返してくる。
屁理屈がどうしてこんなにスムーズに出てくるのか一度頭の中を覗いてみたい。
「あぁ、そうだ金平糖あるぞ食べるか?」
引き出しから出してきた大粒のそれを受けとる。
「甘いの嫌いなのに珍しいね?」
「ん?健康祈願の意味があるってテレビでやっててな?俺の健康祈願代わりにしてくれ。甘いの好きだろ?」
「それ、人にしてもらって意味あるの?」
言いながらもありがたくいただく。
「それもそうだな、ひとつくれ。コーヒーにいれるわ」
「天才のお兄様、そんな事にも気づかないのはやっぱり?」
兄に勝てた!!と心でガッツポーズをとる。
「孔明の罠だよ?」
差し出してきたスマホには
「家族で食べると家内安全のご利益が高まります」
との言葉が載っていた。




