傘、飴、雨2
しとしとと降る雨粒がアジサイの色を鮮やかに映し、朽ちかけのバス停は雨漏りしている。
「5時間待ち……マジかよ」
ため息が出そうなのを口の中のあめ玉を転がすことでまぎらわせる。
今朝は快晴で何でもできる気になったのだ。有給をとってバスで行けるとこまで来たのだが……。
周囲を見回しても田植えの終わったばかりの田んぼが広がるだけで
コンビニはおろか、自動販売機さえもない。遠くでたまに鶏の鳴き声が聞こえる。
退屈しのぎの動画はいつまでたっても丸がぐるぐると回るばかり。
「どーすっかなぁ」
田んぼの向こうにふと鳥居が見えた。
オカルト好きの心がざわつく。
「神隠し(゜∀゜ 三 ゜∀゜)きた!?」
思わず頭の中で顔文字を思い浮かべる。
どうせ5時間は暇なんだ行けるとこまでいってみよう。鞄から折り畳み傘を出して雨の中へ向かう。
鳥居に近づくにつれ緑の臭いがきつくなる。ムワッとしたその臭いと圧倒されるほどの新緑が
神聖な場所に侵入しようとする俺を阻んでいるように感じる。
オカルトゲーならここらできれいな赤い着物を着た幼女に出会ってもおかしくないんだが……。
キョロキョロと辺りを見回して見るが誰もいない。
鳥居を潜り抜けると小さな祠があった。
左右には狐がいる。
「お稲荷さんの流れなのかなぁ?」
ふとスマホで調べようと取り出すと手を叩かれスマホが落ちる。
手の伸びてきた方を見ると青白くキツい目付きの唇の薄い女性が立っていた。
「おっ!?これは!!オカルト展開!!」
心でガッツポーズしていると
「写真を撮られることを嫌いますので」
女性はそれだけ言って立ち去ろうとする。
「あのっ!!バスがなかなか来なくて!どこか雨宿りできる場所ありませんか?」
オカルト体験をここで終わらせてたまるか!とばかりに女性に話しかける。
「あぁ、5時間ごとですものね」
女性は微笑むと
「なにもない家ですけども」
と案内してくれた。
古風な日本家屋の平屋で親子三人で過ごしていると言う。
「ただいま」
女性が引き戸を開け手招きする。奥で包丁を研いでいた女性の母親がにこりとして頭を下げた。
「雨宿りしたいんですって」
「おやまぁ、なんもないところですからねぇ。そうだ、いなり寿司が少しあったね。お出ししましょう」
山姥キター等と不謹慎なことを思っていた私が恥ずかしくなる暗い優しい言葉をかけてくれる。
「いえいえお気遣いなく」
「お口にあうかわかりませんけども」
甘いおあげに竹の子とゴマ、ニンジンのはいったお稲荷は絶品で、言葉の限りを尽くして美味しいと伝える。
他愛ない話をしていたら父親が帰ってきたのでお邪魔している旨と何らかのお礼の申し出をする。
「それならちょっと手伝ってくれないか?」
雨漏りをしているバス停の修繕の手が足りないと言う。修繕が終わった頃には雨もあがり、バスがやって来た。
「ありがとうございました!!」
深く頭を下げてバスに乗り込む。
バスの後ろ姿が見えなくなった頃。
「素直すぎて食べたら腹壊すな」変化をときながら娘が言う。
「山姥キターって何語じゃろうか?」母親が不思議そうに答える。
「せっかく呼び寄せたが薄荷の臭いはキツくてたべられん」父親が呟く。
そうとも知らず俺はバスの中で爆睡していた。




