白、黒、悪魔
色のない世界に舞い降りた悪魔が嗤う。
ここには俺の仕事がない。
何もかもを無為に見つめる瞳に自棄になるほどの熱がこもる日などあるものか。
光ささぬ世界に舞い降りた悪魔が嗤う。
ここでは、俺が働く意味がない。
厭世がもはや珍しくもない、自らが供給し続けてる不幸に酔っている。
視界を攻撃するほどの色彩に溢れた世界で悪魔が嗤う。
ここでは俺の力の半分も使いこなせない。
ファッション感覚で落ち込んでは、着替えるように笑う。
流されるままに生きる者に構って得られるものなどない。
「パイセン。また魔王に怒られますよ?」
俺の活動日誌を読んだ後輩があきれた声を出す。
「えっ!?だって仕方なくない?俺世界3つも回ったし様子も見たけどさ?白の世界のやつらはただ事象を観測するだけで心なんてピクリとも動かないし、黒の世界のやつらは厭世がステータスだよ?不幸にするには幸福にせんといかんけどこれ、悪魔の仕事じゃなくない?あのお花畑な色彩世界は一番だめ。思い通りにならなかったら絶望で思いがけないことが起きれば幸福なんて安定しない。コスパ悪すぎるわ」
一気に返すと、
「先輩って意外と真面目ですよね。黒の世界の人と契約してどんどん昇進してる悪魔いっぱいいますよ?下らない教義こねくり回すより評価取りに行った方が賢くないですか?」
後輩が小バカにしたように言う。
「いやそもそもさ、悪魔たるもの、勤労に勤めるってなんかおかしくね?」
俺は食い下がる。
「もっとこうさ?自堕落で好きなことばっかやって、他人の不幸を嗤うクールな仕事だと思ってたんだけど」
「いや。今時そんな気ままに生きて安定なんてするわけないじゃないですか。パイセン老後とか考えてます?」
「いや老後とか考えるの。こう、悪魔的じゃないというかさ?」
「屁理屈ばっかこねてるとアリとキリギリスのキリギリスになりますよ?」
「……」
悪魔の社会で悪魔が悩む。
俺、転職しようかな。




