ダーツ、夢、子供
距離にして237㎝。
白魚のような指が三本ダーツを支える。
普段はいたずらっ子のように輝いている瞳が空気さえ切れそうに研ぎ澄まされる。
すぅ、と息を長く吐く、瞬間。
ボードのど真ん中にダーツが刺さる。
振り返った先輩の微笑みにぎこちなく笑い返す。
「うまいんですね」
先輩が僕の隣に来るまでの数歩の間に心で何度も言葉を練習する。だのに、
「真ん中できたー!!」
両手をあげて心底嬉しそうな先輩をみてつい、「かわいいなぁ」と溢れる。
「知ってるー」にこにことダーツを僕に渡す。
そのときに触れた指にドキリとしながら受けとる。大学内でもかわいいと有名な先輩が僕のデートの申し込みを受け入れてくれたなんて、未だ夢を見ているようだ。
先ほどの先輩の姿を思い出して1投。
へろへろぽとん、とボードにたどり着くことなく落ちる。
「力みすぎ?かなぁ?」
腕をつかみフォームを教えてくれる。
ふわりと鼻腔をくすぐるシャンプーの匂いにどぎまぎしながら言われるままに投げてみる。
ひょろひょろ、とん、ぽと。
時計の文字盤で言うところの9の辺りにぶつかって落ちる。
顔が赤くなるのを自覚しながら振り替えると「筋がいいよ!大丈夫!!」と微笑んでくれた。
「次刺さったら、ご飯いってください!」
予想外でた大きな声でお願いする。
「うん!」顔をくしゃっとして大きくうなずいたのを確認してから三投目。
サクッといい音が足元からした。
「刺さったねぇ……あははは」こらえきれずに笑い出す先輩に半泣きの僕。
「ねぇ、どこつれてってくれるの?」
洒落たお店など知らない僕は近所のファミレスへ。ドアを開けた途端に親子の喧嘩の声が聞こえてくる。
「ヤダー!!ハンバーグじゃない!!」
「さっき、スパゲティーやめてこっちにするって言ったでしょ!」
「グラタンにするってゆった!」
あぁ、ムードもへったくれもない。申し訳ないと視線を向けるが当人は
「うんうん!ゆっくりおしゃべりできるし、いいね!!」と満足げに何度もうなずいている。
席に案内されて料理を待つ間、そわそわしてる僕に
「いきなりだけどさ、夢ってある?」先輩がくりんっとした目でまっすぐ僕を見つめ聞いた。
「夢、夢……うーん今はまだ探し中ですね」
「わっかるー!!慎重に決めたいよね!でも夢を探すのにもお金ってかかるじゃない?」
「まぁ……生きていくだけでそれは……」
変な流れだと思いながらも先を促す。
「ということは取り急ぎ仕事を決めなきゃなんだけど、大手に就職したとしてさ?残業だなんだしてたら夢を追っかける間ないでしょ?」
「まぁ……」曖昧に返事を返しながら友人の忠告を思い出していた。
「先輩、ねずみ講にはまってるらしいぞ」
先輩の大きな鞄からA4の紙束が出てくるのをただ見つめるしかなかった。




