花火、月、カード
花火、月、カード
見上げた空の赤い月が今にもぶつかりそうな位大きくて心がざわつく。
不意に周囲が明るくなってはパラパラと暗闇に還る。
音もなく上がる花火が色とりどりに咲いている。
僕はいったい何をしに来たんだろう。
声が出せないことに気づいて不安が増す。
耳がいたくなるくらいの静寂。
鼓動が早くなる。ここはどこなんだろう。
なにかヒントはないかとポケットをまさぐる。
出てきた1枚のカードは弱々しく光っていて。
裏返してみると「ふあん」と書いてある。
来るまでの記憶がない行く宛も思い付かない。
静寂と暗闇を引き立たせるだけの花火の世界で何をすべきか、足の力が抜けそうになるのをグッとこらえる。
ここでしゃがんでしまったらどこにもいけなくなる気がして。
カードが少し明るくなったのでまた目を向ける。
「ここにずっといるつもりはない」
ならば歩き出そうかでも何処へ?
砂鉄が動くようにカードの文字が動く。「ここではないどこかへ」
ひときわ大きな花火が上がり遠くを照らす。
ベンチが見えた。
「とりあえずいってみよう」
カードは僕の気持ちを書いてくれるようだ。
ベンチにたどり着くと「ここへきてほしい」とカード。
ここを離れたところでもう、座れるようなところはないかもしれない。
「つかれた」「もうやめよう」「きたいするのは」
ざわざわとカードが次々に言葉を紡いでいく。
「いなくても」「なにもかわらない」「これまでどおり」「であわなければ」「であってなくても」「いきてきた」「しがみついたって」「どうにもならない」
あぁ、分かった。僕は君を失ったんだ。
君の声を聞くための耳も繋ぐための手も駆け寄るための足も思い紡ぐ口も要らないって捨てたんだ。
カードが足元にポトリと落ちる。ここは望む通りになる世界。
もうなにも見なくていいと目を閉じた途端になにかに蹴っ飛ばされた。
思わず受け身をとる。何が起きたのかを見たいと望む。
「ばっかじゃないの!!」泣きそうな顔で君が仁王立ちしてる。君を抱き締めようとして目が覚めた。
見知らぬ白い天井。お腹が大きな音をたててなる。
「先生!目が覚めました!」まわりが騒がしくなる。




