肉まん、公園、紅茶
「……追いかけてこんなぁ」
冷えた手を温めるために買った肉まんを一口。
すべり台を得意気に滑り降りる子供と、嬉しそうに受けとめる母親の様子に苛立つ。
「もう1回!もう1回!」
無邪気に母親にねだる子供。
「もうそろそろ夜ご飯の時間だからおしまいにしない?」
いいながらもすべり台の下で子供を待ち受ける姿勢は崩さない母親。
うっかり舌打ちがでてしまう。
手の中の肉まんはすっかり冷えて固い。
この気持ちごとゴミ箱に投げ捨てたい衝動と戦いながら油のざらざらした塊をのみ下す。
大きく息を吐く。切り替えられない。
「もっと遊ぶーー」と地団駄を踏む子供に「じゃああと、3回でおしまいね?」と子供と冷静に交渉できるいいお母さん。
貴方がそうであったなら。私は今、目の前の光景を別の気持ちで見つめられたのに。
尻ポケットに入れたスマホの形が冷たく固く主張する。
「おねーさん、ばいばーい」
すべり台を滑っていた子が私に手を振る。
無理に口角をあげて手を振り返す。ぺこりと母親が頭を下げる。つられて頭を下げた時、思っているより自分の体が冷えていることに気づく。
赤く染まった空はやがて星空をうつすけれどもここから動けない。
あぁ、貴方が一言、声をかけてくれたなら私は動き出せる気がするのに。
「なんでもかんでも俺のせいにするなよ」
家を飛び出す直前に投げつけられた言葉がよみがえる。
首をふって自動販売機で紅茶のボタンをおす、出てきたサイズに苦笑い。
これを冷えないうちに飲み干すのは無理そうだ。スマホがふるえる。
「俺も冷えてるんだが半分くれるか?」
「い、や、だ!」
さっきまでの自分の幼い感情をすべて見透かされた気がしてそれだけ言って電話を切る。
紅茶をグィーッと飲みながらあたりを見回す。
青白い光が私からさほど遠くない樹の影で点っている。
やはり飲み干せなかった紅茶を冷めないように服の内側に入れ、その光に向かう。




