たまご、はさみ、テレビ
「いっけぇーー!!!!!」
コイツが来たせいで安息の日々は終わった。
朝日と同時にヒーローに変身するコイツの止め方を誰か教えてくれ。
「必殺!ウルトラスーパーハイパーキックパンチ!」
いいながらタックルしてくる。
あぁもう、キックでもパンチでもないんか!
うわぁーーとやる気のない声を出しながら倒れて見せる。
クリスタルでできた鳩時計が鳴く。
「テレビつけて!!テレビ!!」
騒がないでもつけてやるというのに。
「必殺!!ウルトラスーパーハイパーキックパンチ!」
画面の向こうでフルフェイスのスーツを着た赤いやつが銃をぶっぱなしている。
……この作品の作家の両肩をつかんで「言動一致!」と揺さぶりたい。
敵が派手に爆散して、エンディングが流れる。
「もう一度!!」
録画を見せろと言われるままに操作する。
その間に昼食を作る。高級卵で綴じた親子丼。出汁も肉も取り寄せた一流品。
この味の繊細さがコイツにわかるとは思わないが。まぁ、俺のついでだから。
食卓に並べ、呼ぶ。素直にテーブルについたが食が進まない様子。味はいつも通りに最高だが?どうしたんだ?
「……お母さんのが食べたい」
あぁ、めんどくせぇ。俺はキッチンばさみと焼き海苔を取ってきて切り始める。
できたそのヒーローのシルエットを自分のどんぶりにのせて見せびらかす。
「俺の料理は食わないんだな?」
いいながらもう一体作り出す。ヒラヒラと揺らして見せる。
「食べる!」言葉と同時に伸びてきた手をかわして
「なら言う言葉は?」
「いただきます!!」
別の皿においてやったそれをうっとりと眺めながら丼を食べ出す。
何日かして俺の怪人役も板についてきた頃、
ドアのチャイムがなった。
新生児を抱えた姉貴が「ありがとー!!!!」と満面の笑顔で立っていた。
「お母さん!!」部屋の奥から走りよっていくのを内心ガッツポーズしながら見送る。
鳩時計が鳴く。TVをつけようとしてその必要がないことに気づく。
姉からラインが入る。
「ねぇ!海苔ちょきちょきして!!
ってうるさいんだけどこれなに?」
ははっ。思わず出た声に驚きながら
「たまになら昼めし作ってやるよ」
と返信する。




