花束、宇宙、石
「枯れるものを渡すなんて趣味が悪いわ」
持ってきた花束を君がはたき落とす。
トサッと軽い音をたてて花弁が散る。
あの日僕らは夜空を見上げて誓っただろう。
今見えている光が実は何十年も前に途絶えた星の光だとしても、
光が続く限り星は生きていると信じようと。
落ちた花束を拾い上げて花瓶にうつす。
水の中で茎を切り、10円玉を一枚。
君から届かない位置での作業を苦々しく見守る君はしかし、その思いを言葉にはせず、ふいっと顔をそらした。
僕が君の行動に怒らないことに怒っているのだろう。
いつか届かなくなるつかめぬ光ならば、もういっそう見たくはないとそう。
しかし、言葉にしたとしても僕はそれを聞かない。
帰りに露店の主人に声をかけられた。
月の石だと言うそれを差し出して、買わないかとたずねられる。
どう見てもただの小石にしか見えないそれを
受け取り、家路につく。
君が目覚める前に花瓶の前に細工をしたそれを置く。
「……考えたわね」
目覚めた君が気づいて発した言葉には降参の色がにじむ。
下手くそなハナミズキが描かれたその石をひとつ、間近で見せてほしいと君が言う。
手のその冷たさに動揺したのを悟られないように
「月の石だってさ。買い占めたった!」
少し上ずった声が部屋に響いた。
君が観念したように笑う。
「今日は風が気持ちいいんだよ」何となく照れ臭くて窓を開けに行く。
花瓶に生けられた黄色いマリーゴールドが通り抜ける風に頷いた。




