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短編集  作者: まさるしー
19/72

花束、宇宙、石

「枯れるものを渡すなんて趣味が悪いわ」

持ってきた花束を君がはたき落とす。

トサッと軽い音をたてて花弁が散る。


あの日僕らは夜空を見上げて誓っただろう。

今見えている光が実は何十年も前に途絶えた星の光だとしても、

光が続く限り星は生きていると信じようと。


落ちた花束を拾い上げて花瓶にうつす。

水の中で茎を切り、10円玉を一枚。

君から届かない位置での作業を苦々しく見守る君はしかし、その思いを言葉にはせず、ふいっと顔をそらした。


僕が君の行動に怒らないことに怒っているのだろう。

いつか届かなくなるつかめぬ光ならば、もういっそう見たくはないとそう。

しかし、言葉にしたとしても僕はそれを聞かない。


帰りに露店の主人に声をかけられた。

月の石だと言うそれを差し出して、買わないかとたずねられる。

どう見てもただの小石にしか見えないそれを

受け取り、家路につく。


君が目覚める前に花瓶の前に細工をしたそれを置く。

「……考えたわね」

目覚めた君が気づいて発した言葉には降参の色がにじむ。

下手くそなハナミズキが描かれたその石をひとつ、間近で見せてほしいと君が言う。

手のその冷たさに動揺したのを悟られないように

「月の石だってさ。買い占めたった!」

少し上ずった声が部屋に響いた。

君が観念したように笑う。

「今日は風が気持ちいいんだよ」何となく照れ臭くて窓を開けに行く。


花瓶に生けられた黄色いマリーゴールドが通り抜ける風に頷いた。

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