冷蔵庫、野菜くず、料理
いつも一緒にいる僕らの例外。
「明日は冷蔵庫掃除の日だから」
君がひきつった笑顔でそういうから、満面の笑みで「手伝いにいってやろうか?」と返す。
「よし頼んだ!大量の梅干し消費係な」
ひきつった笑顔をいくぶん和らげて君が返事する。
「それだけは勘弁ーー!!そういえば明日は急用ができる予定がある!」
「残念だな、高級梅干しなのに」
「あぁ残念だ、すごく大好物なのに」
顔を見合わせてニヤリと笑いあう。
帰りついて夕飯を済ませ家族の寝静まるのを待つ。
机のライトだけをつけてペンを握り一呼吸。
好きなものしか詰め込んでないはずの冷蔵庫を見回す。
いつのまにか芽を出したジャガイモ、萎びたキュウリ、咲いても愛でられないブロッコリー、友達が買うから何となく買ったおしゃれなだけの調味料……
怒り、失望、嫉妬、虚栄心……ラベリングしてひとつずつ処分する。
空いたスペースに新しく仕入れた同じものを入れる。
今ごろ君は、沢山の認めたくない感情に囲まれて頭を抱えてる。
それをまるごと評価して抱き締めれば、あるいはその煩雑な作業から解放されるかもしれない。
だけど僕の冷蔵庫は見た目ばかり大きくてほんど中身を入れてこなかった。
表現だけの受容は拒絶よりも深く痕を残す。
僕が少しでも処分の痛みを知っていられたなら
君の力になれただろうにその役割を果たす未来は来ない。
空白の目立つそこにイミテーションのいくつかのお菓子がただ冷えている。
ラベリングした野菜クズをゴミ箱に投げ捨てる直前。梅干しの嫌いなアイツの妙案が頭に響く。
「カレーにしてくっちまおうぜ!」
ふっと口許が緩む。アイツの強さを俺が得られたなら。
ポトリとおちた花の咲いたブロッコリーを慌てて拾いあげる。
夜が更けていく。
「なぁ、カレーでも食べに行かねぇ?」
一緒に冷蔵庫の整理を手伝い合えるような関係を世間では親友と呼ぶのだろうけど。
「うどんの気分だわ」
「なら問題ないな!」と走り出す。
「なんでカレーうどん確定なんだよ!」
追いかけて走り出す。
今のこの関係に、きっとお互い違った名前をつけている。
まぁいいかと笑う二人。




