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炬燵、みかん、猫
我輩は炬燵である。名前はまだない。多分今後もつかない。
日々人の足を暖める重労働を、見返り一切求めずにやってることを誉めていただきたい。
「誉められるって見返りじゃないん?」
偉そうに我輩の頭の上でみかんがぼそりと呟くのは聞こえないのである。
吐き出し窓のガラス越しに猫が一匹私をじっと見つめている。
猫には不思議な力があるという。
まさかこの思いを聞かれたのではあるまいな。顔がかぁっと熱くなる。穴があったら入りたいが、足を布団に包み隠すことしかできないのである。無念。
猫はそれまでいたところに丁寧に後ろ足ですなをかけると優雅に立ち去っていった。
我輩は炬燵である。なにも見てない。今後もなにも見ない。




