表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: まさるしー
1/72

菜の花、蝶々、風

モンシロチョウが菜の花の周囲をヒラリヒラリと舞う。

風に揺れる菜の花はくすぐったいといっているよう。


その光景の奥にバス停と少女が一人。

白のロングワンピースの裾が風を受けて長くたなびく。モンシロチョウが人形をとったようなその様子に、思わずシャッターを切る。

あぁ、しまった。

最近は肖像権だなんだやかましいんだった。

誰とも話したくなくて風景を撮りに来たのに迂闊だな。小さくため息をついて少女に近づく。


「怪しいもんじゃないんだけど……」

怪しさしかない切り出し方に我ながら天を仰ぐしかない。

「なんですか?」

警戒の色を隠さずに少女が言う。うん、君は正しい。

「えぇっとね……」

次の言葉を必死に探す。隠し撮りしてしまったけど構成的に気に入ったから今度のコンテストに使わせてほしい……と続けようものなら俺なら警察呼ぶね。うん。

少女の視線が首から下げているカメラを見ている……。

正直に話すしかなかった。

「……データ見せてください」

しばらくの間の後返事が帰ってきた。

データを見せるにはカメラを渡すか、隣に来てもらわないといけないんだが、

カメラを見ず知らずの少女に渡して壊されたらこまるし、隣に来いと言われるのは少女が嫌だろう。

「構わないけど…」

どうやってみてもらうか悩んでいると自然に隣に来て少女が画面を覗く。

ただ白いだけだと思っていたワンピースに銀糸で花の模様が刺繍されているのに気づく。


「……あぁ、これは綺麗です……私が言うのも変かもですけど!!」

写真を見た後のうっとりとした表情がその言葉がお世辞でないことを物語っている。

「これ、焼き増しとかできますか?……現像代くらいしかお支払できないのですが……」

おずおずと問われる。

「モデル料ってことで、お金は要らないよ」

思いがけない言葉にうっかりとなにも考えずに返してから慌てて付け足す。

「SNSなにかやってる?データだけ送ろうか?」

「お手数かけますもんね……データだけでも大丈夫です……」

スマホを取り出してアカウントを教え合う。

「夢野さんね」表示されたプロフィールを見て名前を確認する。趣味欄に目が行く。

「洋裁好きです」……まさか。

「そのワンピース、作ったの?」

こくんと頷く。あぁそれで。

「モンシロチョウの妖精に見えたんだよね」

素直にシャッターを切った理由を伝える。

「えっと……うれしいです」

ほんのり朱色に染まった君の顔を見て俺も黙る。


これが俺らの出会いのお話。


「新郎新婦の入場です!」

司会の声に現実に戻された。

ヴェールの向こうの君が照れたように笑い、僕の腕に手をのせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ