クリスマス特別編7
翌朝、目覚めると、目の前に彼の寝顔があった。
そして彼の腕はしっかりと私を抱きしめている。
その事に、まずビックリすると共に、昨夜の事がまざまざと思い出され、私はカァッと顔が……いや、全身が熱くなった。
あうっ、わ、私、呉羽君とえっちしちゃったんだ……。
しちゃったんだなぁ……。
もう、処女ではないという、一抹の寂しさと共に、彼との関係が更に深まったという喜びが私の中に湧き上がる。
昨夜の呉羽君は、凄く優しくて、熱くて、激しかったです……。
きゃ~!! 何言ってるんでしょう、私! 恥ずかしぃ~!!
チューもいっぱいしてくれて、痛かったけど、すっごく幸せでした……。
ひゃ~!! 私ってばまたまた何言ってるんでしょ~!! いやーん!
それに、名前もいっぱい呼べたし……私が名前を呼べば、ちゃんと彼も応えて……応えて――。
きゃ~ん!! これ以上は言えない! 言えないもん!
それとね、男の子ってミステリーだなぁとも思いました……。
それにしても、えっちって、えっちだからえっちって言うんだなぁ……。
しみじみと思う。
え? 何でまた呉羽君に戻ってるのかって?
それは――、
「ん……ミカ?」
彼が私の横で、もぞもぞと動き、ぼんやりと目を開ける。
「あ、おはよう。呉羽君」
私がにっこりと笑って朝の挨拶をすると、呉羽君は何とも不機嫌そうな顔になってボソリと呟く。
「……なんで戻ってんだ?」
「へ?」
「名前……」
あうっ、呉羽君にも聞かれちゃいましたよ。
だって……だってね?
私は顔を真っ赤にして、お布団の中でモジモジとして、小さい声で言った。
「……だって、名前呼ぶと、昨夜の事思い出しちゃうんだもん……はうっ……」
私が顔を覆うと、呉羽君はパッチリと目を開き、彼もまた赤くなって、「ああ……」と納得していた。
そして、むくっと起き上がって、私の姿を見るなり、「うっ」と呻いて目を逸らした。
ヒャ~、お布団がめくれちゃいました~!
裸なのに、裸なのにぃ~!
私は慌てて、めくれたお布団を被ると、呉羽君は私から目を逸らしながら、
「大丈夫か?」
と、頭上から彼の声が降ってきた。
「え?」
「体……。その昨夜、少し無茶しちまったから……」
「あ……」
カァッとまたもや真っ赤になる私。
た、確かに……呉羽君激しかったなぁ……。
その、何度もされてしまったし……。
キュ~……しょ、正直……今現在、下腹部に鈍痛と、他にもいろいろ痛かったりするけど……でも何か、その痛みが嬉しいというか……。
私はもぞもぞと、お布団に包まったまま、呉羽君に擦り寄る。
そしてお布団の中から、にっこりと彼に笑い掛けると、「大丈夫だよ」と言った。
「あのね、呉羽がくれるものだったら、私なんでも嬉しいよ……。例え痛みでも、あなたが愛してくれた証だから、凄く嬉しい……」
心からの真実の言葉。
私は幸福感と共にそう言っていた。
すると呉羽は、目を見開いた後、何だか泣きそうな顔になって私を抱きしめた。
そして、何か言おうと迷った挙句、最後は「ありがとう……」と言って、私に優しいキスをくれたのでした。
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「――例え痛みでも、あなたが愛してくれた証だから、凄く嬉しい……」
その言葉、その綺麗な笑顔に、オレは思わず泣きそうになった。
昨夜、あれだけ自分の欲望のままに、ミカを壊しそうになるまで想いをぶつけてしまったのに……。
ミカは、その想いを嬉しいと言ってくれたのだ。
オレは堪らずミカを抱きしめながら、こんな時、一体何と言ったらいいのかと迷う。
一瞬、「無茶させてごめん」と謝ろうかとも思ったが、謝るよりも相応しい言葉がある事に気付いた。
「ありがとう……」
オレの前に現れてくれて、好きになってくれて、ありがとう……。
見も心も全てを捧げてくれて、ありがとう……。
そして、オレの気持ちも、オレ自身も、全てを受け入れてくれた……。
オレは心からの感謝を込めて、ミカに口付けたのだった。
~クリスマス特別編・終~
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『クリスマス特別編・おまけ』
「あれ? どったのコトちゃん、この紅白饅頭? 誰か結婚したっけ? それとも出産?」
クリスマスライブが無事終わり、我が家に帰ってきたミカの父、一ノ瀬大和。
彼がリビングへ行くと、テーブルの上に山盛りに盛られた赤と白の饅頭があった。
ソファーに座っている紅小鳥こと一ノ瀬小鳥は、その山盛りの饅頭に手を伸ばし、無言でぱくついていた。
「えー? 何だよ、教えてくれよー。オレとコトちゃんの仲じゃないかぁー」
甘えた声で小鳥の隣に座る大和。
大和もまた、赤い饅頭を手に取ると、口に運んだ。
「うん、美味い。ミカたんが作る饅頭の方がオレは好みだが、これも中々如何して……」
そして、ふと視線を感じる大和。
小鳥がジーッと此方を見ていた。
「ん? どったの?」
すると、小鳥は何とも言えない顔で、ニマーと笑うと、
「ウフフ、ひ・み・つ♪」
「えぇー!? コトちゃんが、コトちゃんがオレに秘密だなんてっ!! それにその顔! なんかすっげー嬉しい事があった時のコトちゃんの顔じゃないか!! クソー、知りたい! 知りたいぞー!!」
「ただいまー……あれ? 何で紅白饅頭? 誰か結婚したの? それとも出産?」
その時、長女のマリも帰ってきて、テーブルの上に置いてある紅白饅頭を見て、先ほど大和が言った事と同じ事を言っている。
「おおー、マリっぺおかえりー! ちょっと聞いてくれよ! コトちゃんがオレに隠し事をするんだよー!! すっげー嬉しい事があったくせに、何も教えてくれないんだよー!」
「えぇー?」
マリが小鳥の方を見ると、やっぱり二マーと笑って、「ひ・み・つ♪」と言うのだった。
「パパの言うとおりだわ! なんて嬉しそうなママの顔なの!!」
「だろ!? 何か物凄い事があったに違いないんだ! この前、ミカたんが初朝帰りした日の様な顔だ!」
「えー? それ相応の嬉しい事!? 一体何!? ママ教えて!!」
「ウフフー、ひ・み・つ♪」
「えぇ~!? ママのいけず~!」
「ただいま……な、何してるんですか!?」
その時、ミカも帰ってきて、リビングに入ってくるなりギョッとして数歩後ず去る。
「おおー、ミカたん、おかえりー!」
「ああ、ミカちゃん、おかえりー!」
「ミカ、おかえりー……お饅頭食べる?」
ミカはテーブルの上に置かれている赤と白の饅頭を見て、明らかに動揺した。
「ちょっと聞いてくれよ、ミカたん!」
「そうなの、ミカちゃん聞いて!」
「コトちゃん、明らかに何か嬉しい事があった筈なのに、何も教えてくれないんだ!」
「そうなの! それも、この前ミカちゃんが朝帰りした時みたいなものすごーく嬉しそうな顔なの! それ相応の嬉しい事が何かあったみたいなの!」
ミカはだらだらと汗を垂らしながら、引きつった表情を浮かべ、
「へ、へぇ~……そ、そーなんだぁ~……」
「そーなんだって、ミカたん! もっと食いつかないと!」
「そーよ、ミカちゃん! ママがこんな顔するなんて、よっぽどの事があったのよ!」
「おめでとー……」
その時小鳥が、虚空に向かって、赤と白の饅頭を捧げもって、お祝いの言葉を言った。
何気に、それはミカの方向に向かって……。
「何ぃー、コトちゃんがおめでとうを言っているぞ!?」
「一体誰に対して!?」
「くぅ~、こうなったら、晃に連絡だ! 誰か身近で、めでたい奴がいないか調査するのだ!」
「私も、パソコンで調べてみよー!」
大和とマリはそんな事を言って、リビングから慌しく出て行った。
リビングには、小鳥とミカが残された。
「は、母……?」
「だって、お赤飯じゃないもの……」
「た、確かに家を出る時、そんな会話はしましたけど……」
「誰にも言ってないわよ?」
首を傾け、小鳥はにっこりと笑って言った。
「そ、それはそうですけど……」
「それで……?」
「え?」
「どうだったの? 彼は応えてくれた?」
小鳥がそう尋ねると、ミカは顔を真っ赤にして俯く。
そして小さく頷いた。
それを見て小鳥は嬉しそうに笑う。
「そう、よかったわね。ミカが幸せそうで、お母さんも嬉しい……」
「……うん、ありがとう、お母さん……」
ミカもそう言って、嬉しそうに笑うのだった。
~おまけ・終~
クリスマス特別編はこれにて終りという事で……。
実を言うと、「ありがとう」と呉羽が言ったその後に一緒にお風呂入っちゃう的な流れにして、呉羽を俺様にして暴走させちゃおうかなとも思ったのですが、一先ずここまでという事ですみません。
書いたら書いたでR指定間違い無しだと思います。
後、今回のエッチの内容は、ムーンライトノベルの方に投稿いたしました。
題名は「聖夜の約束」です。
興味のある方は覗いてみて下さいませ。
あ、18歳未満の人は駄目ですよ~。
ではでは、皆様、よいクリスマス&年末をお過ごし下さい。