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クリスマス特別編2

「しんどい……」

「ん? 呉羽君?」


 ついオレはそんな事を口走ってしまった。

 ミカが首を傾げてオレの事を見ている。

 昼休みの屋上。オレ達は今、この前抜き取っていた屋上の鍵で作った合鍵でここに居たりする。

 お陰で誰にも邪魔されずに二人きりで居られるわけなのだが、ミカの弁当を前にしているのにもかかわらず、クリスマスに向けてのアルバイトに正直疲れて、今物凄い眠気に襲われていた。

 頭がボーとしていた為、ついうっかり「しんどい」などと口走っていたのだ。

 オレは「何でもねーよ」といってミカを安心させようとする。


「呉羽君、もしかしてバイトがしんどいんですか……?」


 だが、安心させるまでは至らず、こうしてミカに尋ねられていた。 

 オレは苦笑しながら、こう言っておいた。


「大丈夫だって、ただちょっと寝不足なだけだから」

「あ、あの! クリスマスデート資金でしたら! 恋人として、私もバイトのお金を――」


 オレは、そう言いながらおかずを乗せた小皿を差し出してくるミカの頬を、ブニッと摘んだ。


「あうっ!?」

「いーんだよ! これはオレがお前の為にやりたいの! それに――」


 顔がカァッと熱くなる。


「その日はミカ、オレの為にクリスマスに一番大事なもん、オレに捧げてくれるんじゃん……」

「は、はうっ」


 ミカも恥ずかしそうに俯いた。

 オレは頬から手を離すと、ミカから小皿を受け取る。


「だから、クリスマスの事は、全部オレに任せてくれよ。その日のデート全部含めて、お前へのクリスマスプレゼントなんだから。割り勘とか、絶対に無し!」


 オレは言い終わるとエビフライを頬張った。

 すると、クイッと袖を引っ張られ、ミカが恥ずかしげに、


「じゃ、じゃあせめて、食べ終わったら膝枕させてください……」


 ポロッとエビフライが口から落ちる。

 ハッとしてもう一度かぶり付くと、「おう」と返事をした。


 クソッ、なんたってお前はそんなに可愛いんだよ!

 そんな事されたら、疲れも吹っ飛ぶっての!


 オレはニヤけそうになりながらも、急いでおかずを詰めしこんでゆく。


「ああ、呉羽君。そんなに急いで食べたら体に毒ですよぅ」


 オレはその言葉は聞かずに、次々に口に飯を運ぶ。


 だって急いで食わなきゃ昼休み終わっちまうだろーが。

 せっかくの膝枕、時間が減っちまう……。


 そうして、あっという間に食い終わったオレは、早速膝枕をしてもらうのだった。



 ++++++++++



 よっぽど疲れが溜まっていたのか、膝枕をすると直ぐに、彼は寝息を立て始めた。

 キュンキュンと胸が高鳴り、私はつんつんと頬を突付いてみる。


「んー……」


 擽ったそうに身じろぎをする様は、更に私の胸をキュンキュンとさせた。


 キャーン! 萌え萌えー!!


 私は彼が起きていない事を確認すると、そっと囁くように彼を呼んでみる。


「……呉羽……」


 はうっ、ドキドキするぅ!

 寝ている彼に対してここまでドキドキするなんて……クリスマス当日は、面と向かってちゃんと呼べるんでしょうか……。

 母には、大好き、愛してるという気持ちを込めて、何度でも呼んであげる事と言われていますし……。

 よしっ!


「……呉羽……」


 ちょ、ちょっと練習ですよ!

 今度は気持ちを込めて……。


「呉羽……」


 ドキドキするけど、なんだか嬉しい。


 ねぇ、あなたはちゃんと喜んでくれるかな……。


 私は手を伸ばし、寝ている彼の髪に触れた。それから頬に触れ、最後に唇に触れた。

 胸が切なくなる。


「……私だけじゃないよ……クリスマスは、あなたも私に捧げてくれなきゃ嫌だよ。私もあなたの全てが欲しい……」


 掠れた、それでいて震えた声で囁くと、私は彼の唇に口付けた。

 優しく啄ばむ。

 触れれば触れるほど愛おしさが募る。

 寝ているのだから当たり前なのだけれど、彼が私のそれに答える事は無く、何だか悲しくなってきた。

 空しさを覚えて、私は唇を離す。

 しかし、何時までも唇から柔らかな感触は消えなくて……。


 あ、あれ?


 パチッと目を開けて見てみれば、呉羽君は私が唇を離すのに合わせて、上半身を起こして唇を押し付けていた。


 は、はれー!? い、いつから起きてたのー!!


 呉羽君もパチッと目を開け、ニッと笑った。


「……ミカって結構キス好きだよな……」

「い、いつから!?」


 私が名前を呼んだ事、聞かれちゃったんでしょうか!?


 ドキドキとして尋ねると、呉羽君は完全に上体を起こして私に向き直った。

 その顔はとても真剣で……。

 彼の手が私の頬を撫で、ボソリと呟く。


「捧げる……オレもお前に全てを捧げるよ……」

「あ……」


 私が彼に口付ける前に言った言葉だ。

 という事は、その時は間違いなく起きていたという事。

 恥ずかしいと思うと同時に少しムッとする。


 起きてたんなら、少しは応えてくれてもよかったのに……。

 何も返してくれなくて、寂しかったのに……。

 なんて、呉羽君の言ったとおり、私ってチュー好き?


 そんな事を思っていると、カシャンと私の背にあるフェンスが音を立てる。

 呉羽君がそこに手を掛けたのだ。


「なぁ、今度はオレからキスしていいか?」


 まるで私の心を読んでいたかのようなタイミング。

 私は思わず喜んだ顔をしてしまった。


「フッ、やっぱりミカってキス好きだな」

「ち、違うもん。呉羽君だからだもん……」


 笑う彼に、私は拗ねた様に唇を尖らせると、チュっとその唇を啄ばまれた。

 呉羽君がニヤッと笑う。


「拗ねんなよ……分かってるから」


 もしかしなくとも、今の呉羽君は俺様になってます……。


 ここで私はハッとして、恐る恐る尋ねてみる。


「く、呉羽君……いつから起きてたの? も、もしかして、捧げてって私が言った前から起きてたりした?」


 だ、だとしたら、クリスマスプレゼントにと思っていたのが台無しです……。


 私が呉羽君の顔を窺いながら尋ねると、彼は「いいや」と首を振った。


「ミカが顔を撫でてっ時に目が覚めたんだ。くすぐったくて……」


 それを聞いて、私はホッと胸を撫で下ろす。


「そっか、よかった」


 溜息と共にそう言ったのだが、呉羽君が目を細めて私にズイッと顔を近づけてきた。


「何だよ。なんか聞かれたらまずい事でも言ったのか?」

「え!? い、いえ! 別にそういう訳では……」

「だったら、言ってみろよ……」

「だ、駄目です! い、言えません!」


 だってだって、クリスマスのプレゼントですもん!


「じゃあやっぱりオレに聞かれたくない事か?」


 みるみる呉羽君の顔が不機嫌になってゆく……そして拗ねてゆく……。


 ズキューン! す、拗ねてる呉羽君。も、萌えです……。

 し、しかも俺様になってる時にっ!!

 これはレアです! 写メに撮って永久保存したい!


 けれど直ぐにその顔を引っ込めると、すぐさま意地悪に笑う。

 その瞳の中が、怪しげにギラギラと光った。


「言えよ、ミカ。でないと凄い事すんぞ?」

「へ? す、凄い事?」

「そう。凄い事……」


 ニヤリと笑うといきなりパクッと耳を咥えてきた。


「ひゃうっ」


 なんだか背筋がビリッときて、体が震える。


「前から何となく思ってたけど、ミカって耳とか弱い?」


 耳を咥えられたまま喋られて、それで更にゾクゾクッとして、止めにフーと息を吹き掛けられた。


「っん…ふあ……」


 全身から力が抜ける。

 その感覚に私は不安げに呉羽君を見上げると、彼はピタリと動きを止めた。

 そして少し頬を染め、私から視線を外す。


「ミカが言わないと、歯止めが利かなくなってくるんだけど……?」


 はれ? いつもの呉羽君に戻ってる?


「で、でもっ、駄目なんです。だって、プレゼントなんですもん……」

「は? プレゼント?」

「クリスマスのプレゼントなんです……呉羽君が喜んでくれるかは分からないけど……。だから、その時まで待ってくれませんか?」


 すると呉羽君が、ハァーと溜息をついた。


「プレゼントって……それ以上の何をオレに捧げてくれるっつーんだよ……割が合わねーじゃん……」

「で、でも、前にも言いましたけど、私にとっては呉羽君が喜んでくれる事が一番の贈り物なので……。あう……でもそのプレゼントで呉羽君が喜んでくれるかどうかは分かりませんけど……」

「全く、お前って……」


 呉羽君はフッと笑って肩の力を抜くと、優しく笑って私を抱きしめる。


「あのなー、オレにとってもお前の喜んでくれる事が一番の贈りもんなの。それに、ミカがくれるもんだったら、何であってもオレは嬉しいよ」

「呉羽君……」


 それから私達は暫し見つめ合い、唇を寄せ合って――……。


 ガチャガチャ!


『っ!!』


 ドン!

 バタン!


「おほほほ! お姉さま? 呉羽様? このような所にまた居たんですのね! もう直ぐお昼休みは終わってよ!」


 なんと乙女ちゃんがやってきた。

 勿論、細い束を持って……。


「あら? 呉羽様は寝ているんですの?」

「へ?」


 乙女ちゃんに言われて彼を見ていると、私の目の前で仰向けになって倒れている。

 そしてゴロンと背を向け、ハァーと溜息をついていた。


 ノーン! またもや突き飛ばしてしまいましたぁー!


 呉羽君は起き上がると、


「戻るか……」


 と一言呟いた。

 その時丁度、チャイムも鳴って私達は教室に戻る事に……。

 私は屋上をでる彼の背中に、口だけ動かして『呉羽』と言ってみた。

 すると彼は振り返って、


「ん? どうした?」

「あ……ううん、戻りましょう」


 一瞬聞こえたのかと思ったけど、彼はただ振り返っただけだった。

 私は彼の手を取ると、ギュッと握る。


「ああーん、お姉さま! わたくしもー!」


 乙女ちゃんが私の反対の手を握ってくる。


「おい、薔薇屋敷! お前は関係ねーだろー!」

「あら? わたくし、お姉さまの仲良しな友人として手を握ってるんですわ」


 私は乙女ちゃんと呉羽君に挟まれて、二人の言い合いを聞いている。


 うーん、平和だなぁ……。

 でも、クリスマスには、面と向かって言えるようになっているんでしょうか……。

 よし、特訓あるのみです。


 私は心の中で、拳を握って意気込むのだった。



 今回もラブラブな二人。邪魔されたけど……。

 それから、ミカのキス好きが判明。

 そして……。

 うーん、俺様な呉羽は、ちょいエロです……。

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